第133話

 ――若いから洗脳できると思ったのかな。

 当時は何も考えられなかった。今になって気づく。あの講師は自分の理想通りの結婚相手を育てようとしていたのかもしれない。

 嫌な思い出の一つではあるものの、その後の人生で参考になった面もある。

 例えば、女性と食事に行く際は事前に店を予約しておくこと、誕生日プレゼントには安くてもブランドものを選ぶこと、ただし本命と気のない相手との扱いは区別すること――などはその講師の戯言で知った。

 知らなければ、その後付き合った女の子の誕生日に雑貨屋のネックレスかぬいぐるみを贈るところだった。

 講師は小柄な人だった。安治が立っているときにわざと至近距離にきて、身長差を強調するように見上げられたのをよく覚えている。気持ち悪かったからだ。

 丸顔でややふっくらした体型……顔は思い出せないが、瑠那に似ていなくもないような。

 ――ひょっとしてモデル?

 瑠那のイメージがあの講師に反映されていたのだろうか……。

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