第96話

「まあ、勉強だと思え。知らない人に出された飲食物には気をつけろ、ということだ」

「し、知らない人じゃないじゃん」

「何言ってるんだ。お前にとっては今日会ったばかりの、誰だか知らん人物だろうが」

 からかい半分の白々しい顔つきのたま子を見ながら、安治は何かを思い出しかけた。

 ――知らない人?

 どこかで聞いたフレーズのような気がする。知らない……知らなかった……知っている……知り合いの……。

 なんだろう、喉元まで出かかっているようで気持ち悪い。

 しばらく考えてもそれがどこで聞いた言葉なのか、結局思い出せなかった。記憶の中なのか、それとも現実で聞いたことなのか……。何か、思い出してはいけないような感覚もあり、余計にもやもやする。

「で、誰に会ったって?」

 訊かれて急に意識が戻る。安治は処理しきれない感情を吐き出すように、先ほど遭遇した変な人たちについて語った。

 頷きながら聞いていたたま子は、その男女の名前が要次と瑠那るなであることを教えた。

「俺とどういう関係?」

「どうもない、ただの知り合いだ。嫌なら相手にしなくていい。ほかの奴らに相手にされないからおまえに絡んでるだけだ。あ、瑠那には気をつけろよ。お前を狙ってる。少し強引な性質たちだからな、一緒にコーヒーでも飲もうものなら一服盛られかねない。まあ近づかないほうが無難だな」

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