第95話

 黙ってプリンを口に運ぶ。

「あ、美味しいね」

 思わず声に出る。いたって素朴な、昔からある感じの黄色いプリンだ。食感はやや硬めで卵の味が強い。スプーンが進む。

「うん。美味しい。――シンプルでいいね。最近のって、とろける食感とか白っぽいのも多いけど、これくらいしっかりしてるほうが食べてる感じがあっていい。うん、美味しい」

 普段、それほど食べものに感想をつけるほうではない。なのにこのプリンに関しては自然と感動が言葉になって溢れた。

 美味しい、美味しいと言いながらあっという間にカップが空になる。食べ終わったときには非常に満足感があり、ふわふわした幸福な感覚に包まれていた。

 余韻に浸るようにしばらく呆ける――。

 はっと我に返り、目の前のたま子を見る。たま子はプリンには手をつけないまま、意味ありげな薄笑いを浮かべていた。

 ――今の幸福感は……おかしい。

 安治は内心で冷や汗をかく。このプリン……何が入ってる?

 容器に張られたシールを見る。名称は「幸福プリン」とあった。

「食うか?」

 たま子は自分の前にあったのを勧めてくる。

「いらない」

 慌てて首を振る。たま子は平然と言った。

「大丈夫だ、依存性は……あまりない」

「あまりって何?」

 たま子は軽く笑ってそれを袋にしまった。最初から自分は食べる気がなかったらしい。

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