第97話
「あの、狙ってるって、どういう意味で……?」
「付き合いたいんだろ」
「単純に、好意ってこと?」
「さあな。ボクも話さないからよく知らん」
「けっこう年上だよね?」
「ああ。みち子姐よりは上だったと思う」
「みち子さんて何歳?」
「さ――訊くなよ。教えたら殺される」
「じゃあ、やっぱり班長とか?」
聞くと、たま子はふんと鼻で笑った。
「あいつがか。そうなら、姐さんと呼んでる」
「あ、そっか。――ん? じゃあ、要次さんのほうは?」
白髪の目立つ知的な風貌を思い出す。立場のある人ではないのか。
「そっちも敬称はいらん。あいつは臨時のアシスタントだ」
「臨時? 今だけここにいるってこと?」
「いや。あいつは多分、ボクが生まれる前からここにいる。最初はドクター候補だったんだろうが、仕事ができないんで、どこのチームからも相手にされなくなった。まあ、ソトで言うところのアルバイトだな。誰にでもできる簡単な雑用があれば呼ばれる。研究所産の世話なんかもするから、それでお前と知り合ったんじゃないか」
「世話? 俺、世話される立場だったんだ?」
「ああ、違う。お前も研究所産を世話してたんだ。お前、何でも面倒くさがるくせに、子どもの面倒はわりと平気でな」
「あ――へえ」
不思議はなかった。母と姉からの溺愛を窮屈に感じ始めた頃にできた弟を、安治は意外と可愛がったのだ。当然、自分への溺愛が弟のために割かれることになったが、それでも弟を憎いとは思わなかった。
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