第124話

「まず材料をキッチンのテーブルの上にご用意ください。ジャガイモとニンジンとタマネギは流しの横のストッカーにあります」

「待って待って」

 慌てて周囲を見回す。まるで他人の家だ。どこに何があるのかさっぱりわからない。

「ストッカー? ああ、これか」

 近くに置かれた炊飯器が目に入る。アパートで使っていた安物と違い、いろいろな機能がついているようだ。これも教えてもらわないと使えそうにない。

「お米は……」

「反対側の足下にあります」

 言われた通り見ると、透明な保存容器が置かれていた。

 ――便利だな。

 再度思い、天井を見上げる。どこからか見ているのだろう、オイコノモスを意識する。住人の位置や行動を逐一監視している存在……気持ち悪いと思えば気持ち悪いが、今の安治には頼もしく思えた。

「お肉は冷蔵庫にあります。お好きなものをお選びください」

 そう言われると微妙に迷う。結局、無難に豚肉にした。

 ――豚コマ――いや、豚バラか?

 ラップをかけられた肉を取り出して思う。豚肉と牛肉の違いは見てわかる。色味や脂肪のつき方からしてこれは豚肉だ。薄く切られたものが詰まっている。しかしスーパーで売られているのと違って、それが何なのかの記載がない。自分で見分けるしかないようだ。

 これは豚コマか豚バラだ。それは間違いないと思う。しかしそもそも、コマとバラの違いは何なのか――。

 ――こんなとき、スマホで検索できればいいのに。

 そう思ってから、訊けばいいことに気づく。

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