第123話

 部屋に戻った安治は、軽くシャワーを浴びてベッドで横になった。うとうとしたものの、ほんの三〇分ほどで目が覚めた。案外、疲れていないようだ。

 両腕を顔の前で伸ばしたり、腰を捻ったり、適当にストレッチをする。まだ一九時前だ。何をしようか。スマホがないので時間の潰し方がわからない。

 部屋を出るのもいいけど――と考えて思いつく。

 ――そうだ、カレーでも作ろう。

 おりょうは帰りが遅いと言った。食べて来るかもしれないが、用意してあっても迷惑ではあるまい。食べなくてもカレーなら翌日に持ち越せるし、冷凍もできる。

 良い案を思いついたと早速材料をチェックしに行く。大丈夫だ。ポークカレーでもビーフカレーでもキーマカレーでも作れる。

 図書室でレシピ本を借りてくればよかった。この時間でもまだ開いているだろうか。

「あ……そうだ、シャーリー・オータム」

 適当に見上げて呼びかけると、

「はい」

 と滑らかな合成音が当然のように返事をした。

「図書室ってまだやってる?」

「二四時間やっています」

「え、そうなんだ」

「何かお探しでしょうか?」

「うーん、カレーの作り方を……」

 どうせレシピを見るのだったらカレーでなくてもいいような気がする。しかし初日だ、冒険して失敗するよりは安全策を取ったほうが……と軽く逡巡する。

「カレーの作り方でしたら、私も多少は存じ上げておりますが」

「え」

「今室内にある材料で作れるレシピをご案内いたしましょうか?」

「え、うん」

 ――便利。

 安治は初めてスマホを持ったときの感動を思い出した。

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