第212話
「ああ」
たま子も渋い顔で頷く。
「何かって何が?」
安治だけがぴんと来ていない。
「なんで誰も戻って来ないのさ」
「え? ――休憩してるからでしょ?」
説明されたではないか、と安治は思う。しかし二人は怪訝な態度を変えない。
「全員が休める場所があるなら、最初から全員降ろすんじゃない?」
琥太朗の指摘はもっともだった。
「でも……トイレは数が少ないだろうし。トイレのところに大勢いたんじゃまずい……ってことなんじゃ」
どうにか理屈をつけてみる。が、自分でも納得はできない。
――誰も戻って来ない……。
琥太朗は何を想像して、何を心配しているのか?
推測しようにも、怒ったような表情で扉を睨んだまま黙り込んだ少年にかける言葉が思いつかなかった。
考えようとすると、嫌な想像が勝手に浮かぶ。そんなわけない、と頭を振って、無理やりに前向きな可能性を考える。
ひょっとしたら、別の車も到着して、再会を喜んでいるのかもしれない。コンテナ車はここまでで、ファミリーが用意した別の車に乗り換えているのかもしれない。数時間ぶりに外の空気を吸った人たちが単純に戻るのを渋っているだけかもしれない。戻って来ない理由などいくらでも考えられるではないか。
――でも。
たびたび戻ってくるスタッフが何も説明しないのはやはり、不自然……か?
鼓動が速くなっているのを安治が自覚したとき、ガチャリと金属の擦れる音がして扉が開いた。
――今の音。
開錠した音だ。今まで気にしていなかったが、スタッフは毎回扉に鍵をかけていたらしい。
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