第37話
「いえ、ありますよ。私たちが話しているのは日本語です。日本のテレビ番組も観られます」
安治が何か言う前に、おりょうは続けた。
「安治さんに移植された記憶は、実際に日本で生活していた人のものです。ですから、何も間違いではありません。それが安治さんの本当の記憶ではない、というだけで」
「え……」
言葉に詰まった。
そうなら。
――澄子は。
澄子は実在することになる。あの最悪な家も。
――安治。
澄子が自分を呼ぶ声が再生される。子どもの頃から何回聞いたかわからない声。
「あの、じゃあ――」
軽く混乱しつつ、問いにできる言葉を探す。
「じゃあ、俺の名前って……」
「名前?」
「その、記憶にあるのと、今呼ばれてる名前が同じなんだけど……」
ああ、とおりょうは軽く頷いた。
「それは、同じ名前なんです。同じ名前の人の記憶を」
「あ――」
そっか、それだけの話か。言われてみれば簡単な話だ。
ならば自分の記憶にある澄子が弟を呼ぶ声は、自分に向けられていたものではない――ということにもなる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます