第12話
目線を上げる。布団の縁があり、その先に壁が見えた。
いつもならそこにあるのは年季が入って日に焼けた襖だ。布団とくっついて襖がある。枕元を見れば擦り切れた黄色い畳。
ところが今見えるのはきれいな白い壁紙だ。しかも少し離れている。床は見えない。ということは高さのあるベッドだ。目を上げればヘッドボードが視界に入る。やはり布団ではない。
――ええ?
起きて早々、心臓が冷えた。半ば怯えつつ視線を巡らす。
見たことのない毛布、掛け布団、サイドテーブル……その先に明るい空間があった。家族世帯用の大きなソファセットが置かれている。リビングだ。
――誰の家?
広さからして単身者用のアパートではなく家族向けのマンションか戸建てだろう。
――そんな人いたっけ?
寝起きの頭で記憶のファイルを繰る。自分の実家ではない。別れた彼女は実家暮らしだったが、家に入ったことはない。他に思い当たるのは……。
コト、コト……とテーブルに食器を置くような音が聞こえた。リビングの向こうだ。見えないがおそらくキッチンがあり、そこに誰かいる。
――誰?
悪いことをした自覚はないのに、見つかってはいけないような気になる。まさか、酔っ払って知らない人の家に勝手に入り、勝手にベッドで寝ていたのでは……?
そんなにアルコールを摂取しただろうかと考える。いや、昨日は一滴も飲んでいない。
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