第158話

「あれ――何だろ。まただ」

 光はすぐに消えた。目の錯覚かとも思う。しかしタナトスが知っているように訊いてくる。

「それはソポス?」

「ソポス? ――あ、そう言ってたかも」

 何の変哲もない細い指輪をじっくり見る。素材はわからないが、銀色なので何かの金属かメッキに違いない。

「これって何の意味が――」

「琥太朗も着けてる」

 発言が重なった。

「琥太朗? 誰?」

「あう――友人」

 タナトスは説明を少し迷ったようだった。

「琥太朗は、とても優秀。ソポス使い。上手に使える」

「は? 使うってどういうこと? どうやって使うの?」

「安治、受け取った。使い方、教わってない?」

「教わってないよ。お前と会う直前に渡されただけだもん。ただの指輪だと思ってたよ」

「タナトスはソポスを持っていない。使い方は知らない。持ち主以外はソポスを触ってはいけない」

「触ってはいけない?」

 安治はもう一度指輪をよく見る。使う――と言われても、何かに変形するようにも見えない。何か特定の条件を満たすと合図として光るというような使い方だろうか?

「よーぅ」

 不意に休憩室の戸が開いた。親しげな声と共に要次が入って来る。

「よ、お二人さん。お邪魔していいかい?」

「要次」

 予想外のことにびくっと肩を震わせた安治と対照的に、タナトスは相変わらずの無表情と声を闖入者に向けた。

 要次は彼らの父親くらいの年齢で、見た目はそこそこのナイスミドルである。安治の隣を選んで座ると、馴れ馴れしく距離を詰めてきた。

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