第136話

 ベッドを降り、着替えを漁って洗面所に行く。手早く身だしなみを整えておりょうのいるキッチンに向かう。

「おはよ」

 完成した料理をテーブルに並べるおりょうは身支度も完璧だった。薄化粧を施した顔できれいに微笑む。

「おはようございます」

 甘えるように手を伸ばしてきたので、抱きしめて頭に頬をつける。温かな感触が前夜の気恥ずかしくも満ち足りた記憶を思い出させた。

 用意された朝食はクロックムッシュ、野菜サラダ、コンソメスープ、フルーツヨーグルト、ミルクティーというおしゃれなものだった。まるでカフェメニューだ。

「料理上手いんだね」

 感心しながら言う。実際どうやって作るのか、ミルクティー一つとってもお店の味だった。

「ありがとうございます」

 おりょうはにこにこしながら返した。それだけだ。謙遜するでもなく、自慢するでもなく。

 安治はどことなく違和感を覚えた。料理をすることも、褒められることも、おりょうにとってはどうでもいいことなのではないか――そんな気がした。

 すぐにそんなはずはないと打ち消す。おりょうは単に口数が少ない性格なのだろう。雑談が苦手なタイプで、まだ自分と砕けた会話ができないのに違いない。

 率直なところ、おりょうの雰囲気はオイコノモスやエンケパロスに似ていた。自分の役割を果たすためだけにそこにいるような。

 ――まさかね。

 まさかだ。ロボットでしかないエンケパロスが「旧式」で、「新型」は有機体の体を持っていて人間と見分けがつかないなんてことは――ないはず。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る