仕事

第135話

 おかしな夢を見た。

 森か公園か、草むらに自分は潜んでいたようだ。何か恐ろしいものが近づいてくる気配がしたと思うと、目の前の仲間がそれに捕まった。仲間は大きな芋虫だった。

 体をうにうにと動かして必死に逃れようとするも、押さえつける力が強い。相手は斧のような刃物を持っている。それがごく軽い動きで芋虫の下半身を潰した。

 体液が飛び散り、芋虫が苦悶と絶望の表情を浮かべる。安治は強い恐怖を覚えながら、夢から逃げるように目を覚ました――。


 ――ヴオォォーーォー……。

 低い耳鳴りがしていた。いや、耳鳴りではない、いつものホワイトノイズだ。寝起きには大きく聞こえることがある。

 恐怖の余韻を引きずりながら、安治はそこがどこなのかを確認しようとした。香料が香るつるんとした枕カバーの感触、空調の利いた快適な部屋の温度と照明――残念ながら、一人暮らしをしていたボロアパートのものではない。

 ――夢じゃなかったんだ……。

 軽い失望を覚える。嫌な夢を見たのは、変化に対するストレスのせいかもしれない。

 体感的にまだ早い気がして、目を閉じたまま仰向けになる。もう一眠りしても……。

 そう思ったところで漂ってくる匂いに気がついた。コンソメスープとトーストだろうか、同居人が朝食の支度をしてくれているようだ。

 安治は軽く溜息をついた。

 嫌なわけではない。完全に夢と決別して今日を始める覚悟をしたのだ。

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