第189話
姉はすぐに見つかった。廊下で大きなお腹を上にして倒れていた。目と口を大きく開いたまま動かないのを見て、事切れているのを察する。
思わず目を背けるのと同時に呼ぶ。
「澄子!」
どこにいるのだろう。身重の姉に付き添っていなかったのだろうか。耳を澄ましても返事はない。
――どうせ駄目だ。
心の声が聞こえた。今見た三人と同じように家のどこかで倒れているに違いない。
そうでない可能性にもすがりたかった。偶然一人だけ外に出ていて難を逃れたとか――。
「澄子?」
ふと物音が聞こえた気がした。家の奥だ。見に行くべきか考えて、一旦その場で止まる。
もし澄子が動けるのなら、もう出てきているはずだ。奥にいるのが強盗では、みすみす行ってはいかない。しかし、いるのが怪我を負った澄子で、助けを求めているのだとしたら――。
束の間逡巡した後、安治は様子を見に行こうと決心した。足音を殺して耳に意識を集中する。客間と納戸の間の廊下を、そろそろと両親の寝室に向かって進む。
客間の次の、屋敷の中心部にある床の間の障子が開いていた。普段は日が差さない印象なのに、今日はやけに明るく感じられた。電気がついているのだろうか。
覗き込む前に、中に誰もいないことを確認しようとしばらく耳をそばだてる。何も聞こえない。
強盗がいるなら畳を擦る音くらい聞こえるだろう。そう結論づけて恐る恐る覗き込む。
一秒後、安治は後悔した。果たして、母が活けた花瓶の椿と掛け軸の白虎を背景に立っている人影があったのだ。
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