第138話

「言わなきゃわかんないの?」

 と言われたので、言われなければわからないと返した。火に油だった。彼女はそれまでの不満をぶちまけて安治を罵り、別れると言って去って行った。

 安治は迷ったが、追わなかった。自分のことが嫌いで別れたいのなら、そうしたほうが彼女のためだと思ったからだ。

 ところが後日、彼女の友人を通して文句を言われた。引き留めて、改心すると言ってほしかったのに、それをしないなんて薄情すぎる、最低だ――と。

 友人はこうも言った。以前からはっきり言葉にはしないものの、それとなく察してもらおうと態度に出したり、遠回しに言ったりはしていた。安治は悉くそれに気づく様子がなかった、と。

 多分、自分が悪いのだ。鈍感で気の利かない自分が。それはわかる。だけど。

 ――どうすりゃいいんだ。

 思い出しながら安治は思わず溜息をついてしまった。

「どうされました?」

 おりょうが気遣わしげに訊いてくる。慌てて首を振り、適当な理由をこじつける。

「いや――今日から仕事だなって。……できるか不安で」

 おりょうは慰めるように微笑む。

「今日は早く帰れますから――帰ったらのんびりしましょう」

「うん? ――うん」

 のんびり――いちゃいちゃしようという意味だろうか?

 気にはなったが聞き返せない。物理的には深い関係になっても、心理的にはそうでないことがあるんだな、と他人事のように思う。

 とにかくおりょうはにこにこしている。よくはわからないが、何となく元気が出た。

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