第244話

 散歩を続けると、今度はもっと大きなリクガメに遭遇した。

 全長が一メートルもありそうなリクガメは、のっしのっしと二人の前を歩いていた。ちょうど細い道だったので追い抜くこともできず、二人はその後ろをついて歩く。

「カメ」

「ンメ」

 ――リクガメな。

 大きなリクガメはがっしりした、獰猛とも思える太い手足を持っていた。要塞のような甲羅を背負って歩くには、これほどの力強さが必要なのだろう。

 当然、歩くスピードは速くはない。とはいえ飛び越せるほどゆっくりでもない。

 ――邪魔だな。

 ちょうど同じ方向に向かっているものだから……と考えて気づく。

 ――そうだ。

 安治はぴょんと跳ねると、四つ足で甲羅の上に着地した。人間ならよほどのバランス感覚が必要だろうが、木や岩山も平気で登れるヤギの蹄には何の問題もない。子ども向けの遊具にでも乗った気分で低速のドライブを楽しむ。

 と、タナトスが、

「タナトスも」

 と安治の短い尻尾を掴んだ。

「メッ」

 ――おい、やめろよ。

 制止する間もなく、今度は背中と頭に手がかかる。

「メェ!」

 ――よせって。

 耳と角を乱暴に掴まれる。そのまま引っ張られたと思うと、一瞬、タナトスが安治の上にのしかかった。

 そのままカメに乗っていられるはずもなく、二人は重なって草むらに転がり落ちる。

「……メェッ!」

 一回転して素早く立ち上がった安治は、反射的にタナトスの腹に頭突きを入れた。

 ぐぅ、という変な声を聞いて我に返る。

「メ、メェ。メェ」

 ――大丈夫?

 タナトスは顔を押さえながらゆっくりと上半身を起こした。怪我をしたのかと心配になる。ところが頭を一つ振ると、意外にけろっとした様子で泥を叩きながらすぐに立ち上がった。

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