第166話
遠くに煌めいているはずの星は、次から次に空から降ってくる。流れ星ではなく白い大粒の雪のような塊で、ふわふわと落下しては次第に薄れて消えてしまう。
絶え間なく降り続けるそれらが淡く発光しているために、お互いの顔がわかるくらいには室内は明るい。
「ありがとう。協力的で助かるわ。忙しいんでしょう。少し休んでいく?」
所長はペンを置くと、ティーポットを持つような手の動きをした。動きに一瞬遅れてアンティークのポットが出現し、ウェッジウッドのティーカップに湯気の立つ紅茶が注がれる。
次の瞬間、おりょうの目の前の空間にティーカップと、クロテッドクリームを添えたスコーンが現れた。おりょうは冷静な態度でそれを固辞する。
「人に出された飲食物は口にできませんので」
「それもそうね」
所長は無理強いをしなかった。気がつけば自身の机の上にティーカップとスコーンが移動している。
「それで?」
「私には聞こえない音が安治さんには聞こえているようです。確認できたのはまだ一、二回なのですが」
この報告に所長は驚かなかった。紅茶を口に運びつつ穏やかに頷く。おりょうが続ける。
「本人は耳鳴りか何かだと思っているようです。昔からたまにあると」
所長は少し考えて指示を出した。
「以前と比べて頻度が上がったか、音が大きくなったか、特定の条件で聞こえるのかを訊いてちょうだい。もし言葉に聞こえるようなら、何て言っているか教えて。理由は、そうね、ストレスで幻聴が聞こえるようになったのなら心配だから――とでも」
「かしこまりました」
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