第176話
言いながら北条さんはウェーブのかかった髪をキザな仕草で掻き上げた。わざとらしいのに、それでもかっこよく見える。対照的に野暮ったい所長の外見を思い出して安治は「まあ……」と渋々同意した。
「じゃあ、北条さんは自分をかっこいいと思ってるんですね?」
「思ってるよ」
「…………」
軽口のつもりが、普通に返されて終わってしまった。
「ええと、そういう物語があるんですか?」
あるなら体験してみたいような、みたくないようなだ。
「いや。いずれはいろいろ取り揃えるつもりなんだがな。とりあえず今でき上がってるのは、平凡な恋愛ものと典型的な少年漫画風の二種類だ。どっちがいい?」
――何その形容詞。
平凡や典型的という単語から、どうわくわくしろと言うのだろう。
「典型的な少年漫画風……。っていうと、バトルものですか?」
「そうだ。わくわくするだろ」
安治はそこでやっとタナトスを見た。タナトスはまるで他人事のように、黙って視線を彷徨わせている。生気がないように見えるのは必ずしも照明のせいだけではあるまい。
――バトルかあ……。
読むのは好きだが、自分でできる気はしない。一発殴られただけで戦意喪失する自信がある。血なんて見たら気絶してしまいそうだ。
「あの、タナトスも一緒に?」
「ああ、今のところ最大で五人まで同じ話に入れる」
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