第68話
「ほう」
好奇心を漲らせた眼差しを向けられて、安治は途端に腰が引ける。
「え、何? ……説明しろって言われても無理だよ。俺だってよくわかってないもん」
「税金っていうのもあるんだろ。あと保険」
「あるよ。説明できない」
「なんだよ、経験したことじゃないのかよ」
たま子は不満げだ。安治は反論する。
「だって、それが当たり前なんだから、どうしてあるのかとかいちいち考えないよ。そういうもんだとしか思わない」
たま子はうんうんと頷いた。
「もっともだ。だからお前もあれこれ訊かないでくれ。説明できない」
「あー、うん」
返事をしてすぐに質問が口からこぼれる。
「ここって、元はソトの人が作ったって言った?」
たま子は苦い表情で口を曲げた。
「その話はするなよ。タブーだぞ」
「自分で言ったんじゃん」
「それくらいは考えればわかるだろ。ボクたちが何語をしゃべってると思ってるんだ」
「見た目も同じだしね――」
言う側から安治は信じられないものを見た。横の通路を大柄な女性が通ったと思ったら、その人には腕が三対、六本あったのだ。
安治の目線を追ってたま子が言う。
「あれが研究所産だ」
言葉が脳に信号を与えて意味を思い出させるまでに数秒かかった。
「……あれが?」
――俺と同じ。
食堂内を見回して気がついた。皮膚がヘビの鱗で覆われた半裸の人、トカゲの尻尾をスカートから垂らした人、頭髪の代わりに羽毛の生えた人、猫科の動物らしい耳のついた人、ブタとのハーフらしい顔の人などが普通の人間と同じように食事をしたり本を読んだりしている。
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