第67話
「ボクも子どもの頃、疑問に思って訊いたことがある。昔はあったらしいんだ。ここの人たちも元はソトから来た人たちだからな。マチができる前は、ソトと同じようにカネのやりとりをしていた」
「そうだよね。それがなんで?」
「簡単な話だ。マチができて、ソトと出入りができなくなった。するとカネも出入りができなくなった」
「出入り? ……出入りができなくたって、既にある分で、できるんじゃない?」
「だから最初はできてた。そのうちカネがなくなった。物理的な意味でだ。カネは紙や金属だろ。使い続ければぼろくなって壊れる。な?」
「ああ――新しく作れないから?」
たま子は頷く。
「まあ、技術的に無理ってことはないだろうけどな。わざわざ銀行や造幣局を作ってまでカネ制度を維持する必要はないってことになった。そんなにマチは広くないし人も多くないからな」
「銀行もないの?」
「ない」
「え、じゃあ、お給料って? みんな、ここで働いてるんだよね?」
「給料かあ」
たま子は急に遠い目をした。
「あれだろ、月に一度、給料日に封筒で渡されるんだろ?」
妙にうきうきした様子で言ってくる。どうやらドラマやアニメの知識を思い出したらしい。
「封筒? 現金でもらうってこと? それ、大昔の話だよ」
「知ってる。現金じゃなくて振り込みだろ」
「ああ、給与明細か。んー……。俺が行ってたとこは電子明細で、紙じゃ渡されなかったからなあ。……年末だけだね、明細一覧と源泉徴収票……」
他にも何かあっただろうか。思い出しつつ話す。
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