第146話

 今いるのは図書室の近くにある小さな休憩室だ。狭くて貸し切り状態なので自由に話せる。

「次、安治」

「なんで。もう終わり?」

「タナトスについて知りたいことがあれば答える」

「ああ、じゃあ……なんでそんな服なの?」

「なんでとは? 何故この服を着ているかを訊いている?」

「まあそうだね」

「部屋にあるので着ている。部屋に服を用意したのはタナトスではない」

「部屋って、誰かと住んでるの? 一人――じゃないよね」

 思えば一人で暮らせるわけがない。誰かが面倒を見ているのだろう。その人が教育をすればいいのに――と思いつつ訊くと、タナトスは嫌そうな顔をした。

「姉と住んでいる。恋人」

「うん? どっち?」

「エロスは姉であり恋人である」

 姉と聞いて安治は反射的に自身の身内を思い浮かべた。だが、タナトスの姉というのは、それとは意味が違うだろう。おそらくはタナトスより前に造られたアントロポスのことだ。倫理的にも生物学的にも問題がないに違いない。

「お姉さんが恋人なんだ?」

 タナトスは頷く。その顔が浮かない。

「お姉さんと仲悪いの?」

 安治も長姉のほうとは仲が悪かった。年が一〇歳離れているにも関わらず、ほとんど憎しみ合っていた。なので事情を聞くまでもなく、つい同情的になる。

 しかしタナトスは「え?」という様子で小首を傾げた。

「タナトスとエロスは恋人」

「……今、嫌そうな顔したじゃん」

「していない。エロスは姉であり恋人である」

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