第318話

 痒いのか、たま子は軽く自分の顔や腕を掻き、切なそうに琥太朗の髪を撫でた。

 歩きながら考えていたらしく、間を空けずに「おそらく」と呟く。

「おそらく、紫外線だ」

「紫外線……」

 鈍い安治でも、説明はその一言で十分だった。

 聞いたことがある。マチの大気はソトの自然環境を再現している。ただし紫外線はソトに比べてかなり弱いのだと。

 マチの人は平均的に色が白い。その中でも琥太朗は際立って繊細な肌をしていた。

 安治は長袖から覗く自分の手の甲を見る。ほんの少し茶色く焦げたような色になっている。顔はもっとに違いない。

 確かに最前から、いくらか目や肌にぴりつくような刺激を感じてはいた。とはいえ無視できるほどだったので、気にしてはいなかった。まさか他の二人がこれほどダメージを受けているとは。

「大丈夫か?」

 たま子が優しく琥太朗に声をかける。琥太朗は両手で目を押さえていた。その手も腫れて、紫や赤の斑点が浮かんでいる。

「……目が痛いよう……」

 ぐずるような声だった。喉も腫れているのか、声が出しづらいようだ。たま子がいたたまれない様子で抱きしめる。

 安治は琥太朗の茶色い瞳を思い出した。色素が薄いということは、それだけ日差しに弱いということなのだろう。

 二人がこれ以上進めないのは明らかだった。紫外線を避けるには、車に戻ってコンテナの中にいるのが一番かもしれない。しかしそこまで戻る体力が二人にあるとも思えない。戻ったところで、敵に遭遇してしまったらなお最悪だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る