第208話

「どうした?」

 たま子が小声で問いかけるのが聞こえた。見ると、俯いたきりの琥太朗がもぞもぞと身体を動かしている。

「……具合悪いのか?」

 心配そうに背中を撫でるたま子。すると気づいたスタッフがペットボトルの水を持ってきてくれた。

「小さい子はストレスで体調崩しやすいから。必要なら、これ」

 薬入れらしい巾着から取り出したのは、酔い止めの薬と解熱剤だった。たま子が礼を言って受け取る。

 スタッフは、見た目そうとはわかりづらい私服姿の若い男性だった。黄色のトレーナーを着て頭にバンダナを巻いている。腰につけているのは無線の装置だろう。

「もう少しだから頑張ろうな」

 優しく言って琥太朗の頭を撫でる。それから周囲に向かって告げた。

「あと一時間ほどでトイレ休憩に寄れます。それまで我慢できない人は、ポータブルトイレとオムツの用意がありますので、隅にある衝立のところに行ってください。飲み物の用意もありますが、数に限りがありますので、気分が悪かったり、休憩まで我慢できない人だけでお願いします。欲しい人は手を挙げてください」

 応じてぱらぱらと手が挙がる中、ここぞとばかりに質問の声も上がる。

「姐さん、この車はどこに行くんだい。まさかソトに向かってるんじゃないだろうね?」「マチには帰れるの?」

「家族とはぐれちゃったんだけど、他の車も同じ場所に行く?」

 スタッフは困った顔で手を前にかざす。

「すいません、余計な混乱を招くといけないので、何も言えないんです。……言えるのは、この車は皆さんを助けるために走っているということです」

 この答えに、不安の声はとりあえず沈静化した。

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