第207話
いわば自然消滅を狙った方法だ。難点は何世代もの長期間を要する点だろう。もっと急ごうと思えば、荒っぽい方法にならざるを得ない。
マチを『解散』させることはできないらしい。なぜならマチの住人はソトの戸籍も国籍も持たないので、マチを出ても行くところがないのだ。よって、マチを終わらせるために全員殺されてしまうのではないか――それが終末思想論者が抱える憂いだった。
いつだったか、寺子屋で子どもの一人がみち子に尋ねたことがある。その子の家族は熱心な終末思想論者で、かなり自暴自棄な生活を送っていた。
「マチが終わるとき、みんな殺されちゃうんでしょ? だったら、勉強なんて意味がないんじゃない? 働く必要なんてないんじゃない?」
みち子は顔色一つ変えずに答えた。
「あのね、そもそも生きることに意味なんてないの。私たちがしてるのは、全部暇潰しなの。暇を潰すために勉強して、働いて、恋愛するの。例え明日地球がなくなるとしたって、今日何もすることがなかったら退屈でしょ?」
誰も何も反論できなかった。
――みち子姐さん。
寺子屋で気丈に振る舞っていた姿が浮かぶ。彼女は安治たちとは同じ車両に乗らなかった。あれで責任感の強い人だ、寺子屋を頼ってきた人たちが全員避難できるまで自分は逃げないだろう。
――生きてるといいけど……。
ほんの少し、我先にと逃げたことを心苦しく感じた。
――自分は無力な子どもなんだから仕方ない。
そんな言い訳が浮かぶのが、さらに苦しい。
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