鏡を見る

第28話

 眠りから覚めた。顔に当たる毛布の感触で布団の中だと察する。

 軽く寝返りを打ち、枕に頬を当てる。タオルではない、シルクだ。肌触りのいいつるんとした質感に柔軟剤の香りがする。やはり自分のアパートではない。

 我知らず溜め息をつき、いくらか憂鬱な気分で目を開ける。

 受け入れがたい気持ちと、既に受け入れている気持ちが半々だった。

 悲しいかな、否定や反抗の感情はほとんどない。今までの人生で、抗うよりも諦めや我慢することに慣れてしまっている。

「――おりょうちゃん」

 何を求めるでもなく、自然と呼んでいた。目の覚めた幼い子どもが母親を呼ぶように。

 リビングにでもいたのだろう、おりょうはすぐにやってくると覗き込み、心配そうに安治の頬を手の平で包んだ。

「具合いかがですか?」

「……大丈夫」

 長い髪が垂れて顔に触れた。仄かな花の香りが鼻をくすぐる。

 身体を起こすと、抱きついて頭を撫でられた。慰めてくれているのだろう。戸惑いと緊張を覚えつつ、おずおずと抱きしめ返す。

 意外にもしっかりした乳房の感触があった。肉づきの薄い身体は思ったより柔らかく、手触りと体温で官能が刺激される。

 でも今はそんな場合じゃない。身体を離す。

 おりょうは安心させるように微笑んだ。

「ご飯、できてますよ。着替えてから食べましょう」

 そうだった、と思い頷く。せっかく作ってくれたのに、随分と待たせてしまった。

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