ダイモン

第421話

 その後、動けるようになったたま子は研究室に掃除機を取りに戻った。一人残った安治は早速ハンディクリーナーで作業を始める。

 水分が抜けてかさは減ったとはいえ、通路全体にばらまかれているのを見ると気が遠くなる。ひょっとして他の階も自分がやるのだろうか。

 どうせ皆には見えないのだし、このままでもいいのでは。思った次の瞬間にそれを否定する考えが浮かぶ。

 ――もしこれが水分を吸収したら復活する性質だったら? それどころか、時間が経てば自然と復活したりして。

「しょうがないな……」

 独りごちながら手を動かす。忘れていた腰の痛みを思い出してふと顔を上げたとき、衝撃で息が止まった。

 二メートルほど離れた壁に浮き上がった、等身大の黒い人影。

 その頭部にはっきりと開いた二つの金色の瞳が、明らかに安治を見つめていた。


「よお、どうした?」

「どうしたの?」

 突然駆け込んできた安治に驚き、入り口近くにいたたま子とみち子がそれぞれ声を上げる。

 安治は喉が引き攣って悲鳴も出せない。飛び出しそうな心臓を押さえながら、勢いでたま子に抱きついた。

「何だ? 何があったんだ?」

 受け止めて宥めるように背中を叩きながら、たま子が困惑した声を出す。

「まだ何かあるの? もう解決したと思ったわ」

 うんざりしたように言うのはみち子だ。声が疲れているのは仕方あるまい。

「…………いる」

 やっと声が出せた。

「いる? 何が」

 一匹残ってる。

 そう言おうとして、急にそいつがどこにいるのかが気になった。

 追いかけて来ているのでは。不気味な想像が浮かんで、ばっと背後を振り返る。

「…………ぁ」

 息が吸えない。がたがたと震える指で壁を指差す。

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