第32話
九年分、損した気になるだろう。突然齢を取ってしまったような。
――もっとも、見た目はそれほど。
長身のせいか顔立ちのせいか、安治は実年齢より年上に見られることが多い。二八、九に見られるのもよくある話で、むしろ実年齢を言ったほうが驚かれる。だから三〇歳でも見た目にはそれほど差異がないかもしれない。
――違う、その記憶は。
それは記憶にある安治の話だ。記憶が違うのだから、安治は安治の外見を知っているとは言えない。
実際の安治は、年相応だったり童顔だったりする可能性もあるだろう。
実年齢は三〇だけど見た目はおりょうと同じくらい――そう、そんな可能性だってある。
美醜のほどは?
記憶の中の安治は、まあ十人並みだ。痩せ型で背が高いのでかっこいいと言われることはあるものの、顔が特別に良いわけではない。鼻筋は細く高い。でもそれだけだ。美形というほどではないし、可愛いと言われたこともない。
――可愛い顔だったりして。
ふと思う。おりょうのような美人が交際に応じてくれたということは、自分もそれなりの容姿なのではないか?
記憶にあるのと反対に、ぱっちりした目で愛嬌のある顔立ちなのかも……。
確かめてみたい衝動に駆られて、一歩二歩、鏡に近づく。
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