第173話

 北条さんはかまわず話を続けた。

「漫画の主人公になれるゲームなんだ。面白そうだろ」

 タナトスは微動だにしないまま、目だけで「断れ」と訴えていた。

 ――お父さんみたいな人。

 確かタナトスはそう表現した。親子の関係はそれぞれの家庭で違う。どうやらタナトスと北条さんは、フラットに話し合える友達親子というわけではないらしい。

「いえ、今はちょっと……」

 繰り返して断る。

「何だよ、暇だろ」

「暇っていうか……仕事を覚えないとだし……」

 安治はわざとらしく手元の『タナトスファイル』をいじった。

 ――だいたいこの人、俺の知り合いなのか?

 安治が記憶をなくしていることを知らないのだろうか。ならば説明したほうがいいのかもしれない。しかしどう切り出せば……。

 北条さんは焦れたように強めに肩を叩いた。

「いいから来いよ。いつも手伝ってくれるだろ」

 ――そうなの?

 いつもと言われても、戸惑うしかない。

「あの、俺、今、記憶がなくなってて……よくわかんない――」

「知ってるよ。でも問題ないから。来ればいいだけだから」

 断れそうにない。

「はあ……」

 仕方なし立ち上がる。タナトスは一瞬、恨みがましい目を安治に向けた。しかし文句を口にすることはせず、不承不承という感じで続いた。

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