第357話
――自分のほうがまともじゃないくせに。
つい母親への憎しみが腹の底で沸き立ってくる。長い間に形成された条件反射だ。
思い出し怒りをしている自分に気づき、今はそんな場合ではないと頭を振ってタナトスの声に意識を戻す。
タナトスの美少年声優ボイスはなかなか朗読に向いているのではないか。終わったら褒めてあげないと、と思う。
「お母さんは夕方から夜中にかけてのお仕事を始めたの。だから学校から帰って寝るまで、私はレナと二人きり。最初は寂しかったけど、慣れないお仕事で疲れた顔をしているお母さんのために、家事とレナの世話は私が頑張ろうと思った。私はお姉ちゃんなんだから、しっかりしないと」
――お姉ちゃんかあ。
澄子を思い浮かべる。世話になりっぱなしで礼の一言も言えなかった。もう二度と会えないのだろうか。
「新しい生活にも慣れてきた今週の水曜日。学校から帰った私は、日が暮れる前に急いでスーパーに買い物に行った」
――妹は? 一緒じゃない?
「帰り道、公園の前を通りかかったところで、同い年くらいの女の子に呼び止められた。私はその子を知らなかったんだけど、同じ学校の子みたい。前から何度も買い物帰りの姿を見ていたと言われて、急に恥ずかしくなった。私はつい、今お母さんの具合が悪くて、と嘘をついちゃった。本当はそんな必要なかったのに」
――お母さんが夜働いてるとは言いづらいよな。
安治の母親のように偏見を持っている人も実際多いだろうから。
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