第90話
「あと聞いた? 村井チームの川崎。レオンちゃんとうまくいきそうとか言ってたけど、結局勘違いだったってね。まあそうだと思ったよ。ピークは過ぎたとはいえ、まだそれなりの売れっ子なのにさ、川崎ていどで相手にされるわけないじゃん。あんまり本人が真剣に言うから信じかけたけど、そんなわけないよね」
――何、こいつ。
安治は返事をするのをやめた。それでも男性は一人で楽しそうにしゃべり続ける。
「そりゃ、俺はキララとうまくいったよ? でもそれって、誰にでも当てはまることじゃないじゃん。別に俺が人一倍魅力的だったってことでもなくてさ、まあ若いときの話だから、少しはよく見えたのかもしれないけど……要は運がよかったんだよ。それだけだよ。物事にはタイミングってあるじゃん。たまたまうまくいったってことさね」
たまたまを強調しつつ、明らかに自慢している。同じテーブルに座っている人たちの表情が視界に入った。視線を合わせないようにしながら、こっそりと皮肉な笑いを浮かべている。
「ねえ、戸田山っているじゃん」
「え」
思わず反応してしまう。戸田山というのは、あの戸田山だろうか、みち子の部下の。今のところ、この男性よりはずっとまともな印象を持っている。どんな悪口を言うつもりなのか。
「また試験に落ちたらしいよ。熱心に勉強してたのに、気の毒だよねえ。ああいうの見ちゃうと、若いうちからエリート扱いされる人も可哀想だなって思うよね。だって編入組のみち子班長のほうが出世が早いんだからさ。どんな気持ちだろうね、後から入ってきた人にこき使われるって」
「…………」
思わず眉間に力が入るのを安治は感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます