第148話

「タナトスは自分が造られた人間だってわかってるんだ?」

 やや繊細な話題かもしれないと危惧しつつ、何気ない風を装って訊く。予想に反してタナトスは平然と頷いた。

「アントロポスはヒトが創った新しい人類」

 やはり受け売りのようなキャッチフレーズを返してくる。

 『人間』のわりに情緒に欠けているではないか――安治は少し鼻白んだ。心なし、皮肉な口調になる。

「それって何のために創られたわけ?」

「ヒトのため。ヒトは弱い。いつかいなくなる。アントロポスはヒトの歴史を継承する。ヒトが生きた証を守る」

「…………」

 予想外に壮大な返事に、安治は思わず黙る。すぐにいくつかの疑問が浮かんだ。

「でもアントロポスだっていつかはいなくなるんじゃない?」

「いなくなる前にもっと強い存在を創る。ヒトがしたことをアントロポスもする」

「何のために?」

「何のため? ――ヒトのため」

「ヒトが創ったからヒトのために生きるってこと? それって――つまんなくない?」

 言いながら安治はヒトとアントロポスを親子になぞらえていた。親がいなければ今の自分は存在しない。だからといって親のために自分の一生を捧げるなんて――馬鹿げている。

 安治は自分の親に感謝などしていない。勝手に産んだくせに、感謝など強要されては堪ったものではない。だから親の期待に応える気などさらさらないし、むしろこちらの許可も取らず勝手に親になった罪を償ってほしいくらいだと思う。

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