第374話

「でも琥太朗って、かなりちっちゃいよね? あ、背が低いって意味で」

「どの特徴が現れるかは人によって異なる。たま子は背が高い」

「ああ……」

 たま子の顔立ちはごく平凡な日本人顔だ。肌は白くてきれいではある。とはいえ研究所の人は往々にして白い。引き籠もっていて紫外線を浴びないせいだろう。

 ――背が高い?

 またぞわっとした。それは安治にもあてはまるからだ。

 そして安治は色白だった。日に焼けづらい体質で、夏でも黒かったことがない。高校・大学時代、女の子から「肌きれいだね」と言われるのだけはちょっとした自慢だった。

「……え」

 ――嘘だあ。

 頬が引き攣るのを感じた。

 もし安治がシラクサなら、マチで生まれたということではないか。

 安治は今まで、自分はクローンで、ソトでの記憶は偽物だ――というのを心の底では信じていなかった。

 過去を再現することはできないし証拠もないのだから、真実はわからない。わからないけれど、どうしても持っている記憶が事実のように思えた。実家も澄子も存在する気でいた。

 ――でも、本当に。

 自分はこの研究所で作られた生命体なのか?

 数秒、頭の中が空白になった。

 こめかみを流れる血流の音が大きく聞こえるのに気づいて、ふと失笑する。何をそれほど動揺する必要があるのか。

 自分が知ろうと知るまいと、事実は変わりはしない。クローンでも人間でも、自分が自分であることに何ら変わりはない――。

「でもまだ」

 意識するより先に口が動いていた。

「う?」

「――見えてない」

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