第397話

 表情を読んでたま子が肩に手を置く。

「心配するな。ボクのように耐性を持った人間もいる」

「そうだね……全滅はしないね」

 安治は今までに得た情報を軽く整理してみる。

 たま子とタナトスはどちらも、触られても平気なタイプ。そのうちたま子には認識できて、タナトスには認識できない。北条さんや所長は、ヤツハシのほうが避けるタイプ。そして安治は、見えるので接触を回避することができるタイプ。

 ――でも時間の問題なんだよな。

 見えるけれど触られたときの耐性はないので、逃げ場がなくなれば終わりだ。

 とにかく今の段階で犠牲になったのは、認識できない上に耐性を持っていない無防備なタイプだけということになる。おそらくはそのタイプが大多数を占めるのだろうが。

「たまちゃん、触っても平気なんでしょ。払うことってできないの? 物理的に」

 純粋な疑問として発した言葉に、たま子が思い切り不機嫌な顔をする。

「それができるんなら、こんなことになるか」

「あ、ごめん」

 慌てて謝る。自分だけ無事で誰一人助けられていない――という皮肉に聞こえてしまったようだ。

「タナトス、座るな」

「危ないよ、そこ」

 ソファに腰かけようとしたタナトスに、二人が同時に声をかける。たま子ははっきりと苛ついている。

 困惑した様子で動作を止めたタナトスもまた、苛ついた声で返した。

「どうして?」

 どうしても何も――と安治は頭痛を覚える。戸田山が寝ている反対側のソファには誰も座っていない。何もない、とタナトスには見えるのだろう。

 安治の目にはソファの表面を浸食するように黒い染みが這い、座面からは半透明の人の上半身が生えているのが見えた。そいつは海藻のように上げた両手と頭をゆらゆらと揺らしている。その隣になど、自分だったら決して座りたくない。

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