第226話
母の勧めを無視していつもと同じようにスニーカーを履いた。母は苛立った様子で「よく考えなさい」というようなことを言った。
安治にとっては考えた末の行動だったから、他に何を考えろと言うのか、と思って「何を?」と聞き返した。
すると母は言ったのだ。
――自分のことなんだから自分で考えなさい。
子ども時代の安治はそれを文字通りの意味に取った。そして自分で考えた通りのことをしているのに、何故非難されなければならないのかと疑問に思った。
今ならわかる。母は、母親である私の気持ちを考えろ、と言ったのだ。安治自身の気持ちではなく。
そんなの、考えられるはずがない。安治は母ではないのだから。考えられたところで、どうして自分の気持ちを優先してはいけないのか。自分のことなのに。
それと同じだ。
安治とおりょうの関係が二人以外の誰かにとって必要なものならば、どうするかを考えるのはその人であって、安治が考えるべきことではない。もし自分ごととして考えるならば「今はそれについて考えたくない」というのが気持ちだ。
だから、いいのだ。考えなくて。
――生きることは暇潰し。
みち子姐さんの言葉が思い出される。
出産を制限されて子孫繁栄に励めないマチの人にとっては真理なのだろうし、すべての生き物にとっても案外、真理かもしれない。
いや、真理かどうかに関係なく、そう思ったほうが楽だろう。
誰もがただ、好きなことをして生きればいいのだ。
子育てをしたい人は子育てをすればいい。
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