17-Ⅸ ~ヤトガミ・ソードの噂~
「宇宙中にいるヤトガミ・クラスタの中でも、相当の武闘派集団。そいつらの事を、ヤトガミ・ソードという」
ヤトガミ・ソードの特徴は、何と言ってもその強さ。
というのも、剣豪ヤトガミに関連するコンテンツが好きな奴を総じてヤトガミ・クラスタというのだが、連中が好きになったのは、剣豪ヤトガミの「武人としての強さ」である。
そしてヤトガミ・ソードは、総じてヤトガミに憧れ、武芸を磨いているのだ。
「宇宙には極端な奴が多いからな。鍛え方も尋常じゃない。実際、さっき捕まえたテガタン星人のジュテームは、400の惑星間戦争に参加して、五体満足で生き延び続けた超凄腕の傭兵だからな」
「そんなに強かったんですか、あれ?」
「言っておくが、アイツ一人でこの惑星の国家一つくらいなら簡単に落ちる。それに匹敵する奴らが宇宙警察の防衛網をかいくぐって、この地球に来ているんだ」
バーンズの言葉からひしひしと、それが本当であるということが伝わってくる。そしてそんなのと対峙しないといけない、宇宙警察たちの悲哀も。
「……正直、私はこんな星に来たくなかったわ。私たち新人なのに、「見た目が地球人っぽくて現地活動しやすいから」って理由で連れてこられたのよ」
「ああ、なるほど」
確かに、バーンズも、ハンカチ片手に涙ぐむブルーナも、ぱっと見は地球人っぽい。ジュテームにやられてしまったほかの宇宙警察たちも、みんな地球人と同じような人間型だったのだ。そこには、そう言う事情があったのか。
「……事情は分かりました。それであれば、うちの蓮さんが役に立つかもしれませんね」
「ああ……あのジュテームを倒した奴か」
「あの人に手伝ってもらえば、ヤトガミ・ソード相手にも対抗できる。正直、助かるわ」
「ほかにも回せそうな人員を、何人かこっちで見繕っておきますよ」
安里はそう言って笑うと、ソファからすくっと立ち上がった。
「――――――すみませんが、ちょっと失礼。愛さん、良いですか?」
「あ、はいっ」
安里はそう言って、愛を連れて事務所の外へと出て行く。バーンズとブルーナは、その背中を特に何の疑いもなく眺めていた。
*****
「……どうしますかね、一体」
「ま、まさか……こんなことになるなんて……!」
事務所から出た安里と愛は、エレベーターでビルの地下へと降りていた。安里はいつも通りの笑顔だが、愛の顔はすっかり青ざめている。そして、愛は背負っていた竹刀袋を手に持っていた。
――――――その竹刀袋の中には、夜刀神刀がある。宇宙からやって来たヤトガミ・ソードたちの目的である、剣豪ヤトガミの遺品。宇宙的な目線ではとんでもなく価値のあるお宝は、立花愛の手元にあった。
しかも。
「どうするんですか夜道さん! こんなことになっちゃって……!」
「俺に言っても仕方ないだろう!」
ヤトガミ・ソードどもの憧れの的である剣豪ヤトガミその人が、夜刀神刀の中にいるのだ。これは宇宙にいるオタクどもも、想像も行かない事態だろう。
「まさか宇宙中のオタクの人たちが、夜道さんを狙ってるなんて……!」
「厳密に言えば、刀ですけどね」
「どうしよう……ここにあるって、もし、みんなが知ったら……!」
「宇宙中のオタクが
「嫌ああああああああああ!」
愛は頭を抱えて、膝から崩れ落ちた。
夜刀神刀の存在を知っているのは、安里探偵事務所では蓮を除く全員。それと、エイミー・クレセンタ含む愛の友人くらいだ。
「……もう諦めて蓮さんに打ち明けたらどうですか?」
「それはダメですっ!」
もう霊能力者であることはバレているが、それでも蓮には話半分くらいの認識になっている。愛が夜道に霊能力を学んでいることや、それこそ霊力を
「私、普通の女の子として通ってるんで……!」
「もうその路線は無理では? だいぶメッキ剝がれてると思いますけど?」
「そんなことないですよ! ……多分……」
「自分で自信を無くしているじゃないか……」
なんだか勝手に落ち込んでいる愛をよそに、安里と夜道はため息をつく。果たして、これから一体どうしたものか。
「……あ、そうだ。エイミーさんは?」
「それをこれから相談に行くんですよ。そもそも、彼女が持ってきた案件ですからね」
安里がにこやかに笑いながら、エレベーターはぐんぐん下へと降りて行った。
*****
「……
「ああ、そうだ! あの剣豪ヤトガミが使っていた、最強の武器! 夜刀神刀!」
興奮気味に話すジュテームとは裏腹に、エイミーの身体からはどんどん血の気が失せていった。
そう言えばこのジュテームという男、武器マニアだった。それが功を奏して傭兵なんぞやっているが、この男の行動原理は基本、武器収集である。エイミーと同様、コイツの家にも大量の
「あの剣豪ヤトガミの使っていた刀なんて、是非とも俺のコレクションに加えたいじゃないか! 手に入れたなんて言えば、みんなに自慢できるしな」
「お前、そんな理由で先走ったのか?」
「俺はな。……ほかの連中は違うみたいだが」
「何?」
「ヤトガミの母星がコミケの会場に決まったころから、ある噂が広がってな。……というかお前、知らないのか? 地球にいるのに」
このジュテームという男は勘違いをしていた。目の前にいるエイミーも、彼目線では過激なヤトガミ・クラスタの武闘派集団、ヤトガミ・ソードの一人。
なので彼女も、地球に先乗りしていると思っていたのだ。というか、普段の彼女なら絶対にそうする。
勘違いしている盟友に対し、エイミーは困ったように頭をガシガシと掻く。
「――――――ああ、アレか」
「そうそう。ヤトガミの刀を見つけた奴が、ヤトガミの後継者になるっていう噂だよ」
(……何だそれ!?)
エイミーは心の中で叫んだ。知っているような素振りはカマかけ。どうやらジュテームは勘違いしているようなので、それに乗ることにした。
「ああ、それそれ、それな。……私もまた聞きなんだが、誰が流したんだ? そんな噂」
「さあ、それは俺もわからん。だが、ヤトガミ・ソードはそんなの聞いたら黙ってられないだろう」
「……だろうな」
ヤトガミの後継者なんて、ヤトガミ・ソードどころか、ヤトガミ・クラスタのほぼ全員が一度は夢に見る妄想だ。それが現実になるとなったら……。
「――――――抜け駆けする奴がいてもおかしくないな。というか……」
「ああ。俺の知り合いのヤトガミ・ソードも、大概地球入りしている」
つまり、地球全土でオタクどもによるお宝争奪戦が人知れず始まっているということだ。
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