13-ⅩⅣ ~大怨霊モテヘン念~
寺の名前は、
そんなイケメンだらけのこの寺院は、空気も澄んでいるのだが。明らかに一ヵ所、ひどく澱んだ空気の場所がある。檀家の皆さんも、怖がってここにだけは近寄らない。
この寺の地下に封印されている者の名は――――――。
大怨霊、
名前の由来は、この寺院が建っている場所が江戸時代には「
「――――――数十年前、さる霊能力者が、怨霊の声を聴いたのです。あまりにも霊の力が強く、彼は逆にとり憑かれてしまったのですが……その際に、彼はこう叫んだのです」
――――――女アアァァァァァァアアアアァァァァッツ!!! と。
「……つまり?」
「――――――モテヘン念とは、読んで字のごとく。女性に好かれずに死んでいった男たちの、怨念の集合体なのです!」
もの凄く真面目な顔して話す住職の青念に対し、話を聞いている蟲忍衆たちは身体から大きく力が抜けていた。ちなみに、車で遅れていた萌音と九十九の2人も合流し、現在は寺務所の応接スペースで話を聞いている。
「……そんな、アホな……!」
「アホかと思うかもしれませんが、その霊能力者はそのままモテヘン念の呪いに耐え切れずに、身体が爆散して死んでしまったといいます。以来、優れた霊能力を持つ蟲忍衆の方々に、毎年モテヘン念を鎮めていただいているのです」
この時期にモテヘン念が荒ぶる理由。それはもう、考えるまでもない。クリスマスになると、カップルがいちゃつき出すからだろう。
「もしこの怨霊が外に出れば、徒歩市どころか、日本中のカップルを滅ぼそうと暴れまわるでしょう。そうなってしまったら、もう誰にも止められない……!」
「……わかりました、全力を以て鎮めさせていただきます!」
「皆さん……よろしくお願いいたします!」
青念もこのモテヘン念には、相当困っているらしく、深々と頭を下げた。というのも、この池面寺は、縁結びのご利益があるとも言われている。そんなこの寺の地下に、縁結びという言葉の対極に位置するような怨霊を封じ込めているなど、檀家や参拝客に言えるわけもない。さらには、クリスマスの時期になるといつも荒ぶるが、実際はいつ荒ぶるかも正確にはわからないので、毎日この怨霊が暴れだすのではないかという、漠然とした不安に常に悩まされていた。
「……なので、せめて年越しくらいは、穏やかに過ごしたいのです」
「そういう事でしたか……であるならば、早々に済ませてしまいましょう」
詩織たちは蟲忍変化して、モテヘン念が眠る寺社の地下へと潜る。どんどんと澱んだ気配が濃くなり、マスクをしていなければあまりの気分の悪さに吐いていたかもしれない。
「……これを、葉金兄は、毎年……」
「それも、一人で……」
「はい。本当に、凄まじい方でしたから。……彼がいれば、心強かったのですが」
「御心配には及びません。私達も、蟲忍流の正統ですので」
地下は梯子を下り、更に奥に続く通路があった。その通路には薄明かりがあるが、それによって照らされるのは、どれもこれも物々しい札の数々。かつて鎮めに失敗した霊能力者たちが貼っていったものらしい。その数を見るに、どれだけの霊能力者がこの怨霊によって非業の死を遂げたのか、想像に難くなかった。
「……いよいよです。皆さん、お気を付け下さい」
「これが……」
通路を進んだ奥の奥、そこに、頑丈な鉄の扉に、比較的新しめの封印の札が貼られていた。札に書かれている文字に、5人は見覚えがある。葉金の筆跡であった。
「……行くよ!」
「「「「うん!」」」」
明日香が代表として、葉金の札を勢いよく剥がす。と、同時に、5人は素早く扉の中へと入り込んだ。
「……これが……!!」
扉の中は狭い部屋で、置いてあるのは大きな壺。何重にも封印の札を貼られた壺の蓋は、今にも開け放たれんと蠢いていた。それに合わせて壺も部屋の中で暴れまわっており、さながらブレイクダンスである。
その様に一瞬ひるんだが、5人はすぐさま平静を取り戻す。
「――――――手筈通りに! 行くよ!」
「「「「うん!!!!」」」」
こういう現場において一番経験があるのは、近接戦闘を得意とする九十九である。つく者号令に合わせて、5人は荒ぶる壺を囲んだ。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
5人は合わせるように、
「「「「「――――――忍法・
五芒星に近い円陣が壺を囲む。5人の霊力で作られた円陣はみるみると縮み、荒ぶる壺が動ける範囲は、どんどんと狭まっていった。
「――――――ううっ!!」
そして、荒ぶる壺が狭まった円陣にぶつかった際、結界を作っている5人の身体にも、同様の衝撃が走る。その一撃は、変身していなければたちまち身体のあちこちが機能不全になるほどの衝撃だ。
(……これを、葉金兄は一人でやってたっていうの!?)
よろめきながらも結んだ印を崩さず、明日香はマスクの中で脂汗をかいていた。やはり彼は蟲忍衆の筆頭。格が違う。
「――――――皆さん、どうか頑張ってください!」
扉の向こうから、青念が叫ぶ。
彼女たちが行う、荒魂鎮の儀。それは、このモテヘン念が壺から出られないように、一定時間押さえつけ続けるというもの。
その時間は、例年では12月25日、すなわちクリスマスが終わるまで。現在時刻はクリスマスイブの午前9時。
つまりは、あと39時間この結界を維持しなければならなかった。
「……これは、さすがにキツイわね……!」
「でも、やるわよ! 私達は、正統なんだから!」
「「「「おう!!!!」」」」
明日香の号令に、残りの4人は気合を入れなおした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます