16-ⅩⅩⅩⅩⅧ ~消えた男・川上哲郎~
新たに現れた男の顔はわかったが、名前はわからなかった。
「ですが、彼以外の人なら名前も顔もわかりますね」
アルバムの一覧と、男と一緒に写っているチャラいメンバーの顔と名前を照合し、安里はメモを取る。そしてメモした名前を、手ごろなSNSで探すと、すぐに1人が見つかった。
「……どうやらこの女子生徒さんは、短大に通いながら風俗店で働いているようですね。単純に、バイト代稼ぎのようですが」
SNSに投稿された派手な見た目の写真を見せながら、安里はにこりと笑った。その投稿には日常の投稿のほかに、彼女の通っているであろう風俗店の営業もされていた。
「ふ、風俗店……?」
「話を聞きに行こうかと思いましたが……今は、お仕事中ですかね。聞きに行くなら僕が行きますけど、どうしますか?」
安里の問いかけに、愛も春奈も、顔を赤らめて俯くばかりだった。
*****
風俗店に行ってきた安里は、最初こそ「未成年はお断りです」と追い返されてしまった。そのため、例の彼女は拉致するほかなかった。
「嫌あ、ごめんなさいね? 急いでるもんですから」
「む――――――っ!! む――――――っ!!」
朱部に彼女を拘束してもらい、車へと速やかに運び込む。そのまま、事務所へと連れて行き、椅子に座ってホットミルクで落ち着いてもらった。
「……な、なんなの!? アンタたち……!」
「ご、ごめんなさい……。手荒なことは、ないですから……」
「もうすでに手荒なのよ! どうするの、私今日フル出勤なのに……!」
「まあまあ。今日のバイト代分は、こちらでご用意しますから。ちょっと聞きたいことがありましてね?」
「き、聞きたいこと?」
「この方なんですけど、ご存じないですか?」
安里は靄から晴らされた男と、連れてきた彼女が一緒に写っている修学旅行の写真を、彼女に見せる。彼女は最初こそ首を傾げていたが、すぐに「……ああ」と納得したような顔をした。
「……あ、川上……じゃん。高校で一緒だった」
「やっぱりご存じなんですね?」
「そりゃ、同じ中学だったし。コイツ、
川上哲郎というのか、このチャラい男は。それがはっきりわかったのは、今この時が初めてだった。
「この川上さん。今、どうしてるかご存じです?」
「え? いや、知らないけど」
「ラインなんか、ご存じでないですかね?」
「何、川上の奴、なんかやらかしたの?」
「ええ、ちょっと僕の知り合いにお金を借りていまして。回収を手伝ってほしいと言われているんですよね」
安里はにこやかに、かつ超適当に嘘をついた。こういう風に平気で噓をつくから、彼の事務所内での立場は低いのだ。一応所長なのに。
「……ふーん。ま、私関係ないし? 川上なら、そうなっててもおかしくないし?」
「そうなんですか?」
「中学のころから、結構ケンカ自慢だったのよ。高校に入ってからも、腐れ縁でつるんではいたけどね」
その口ぶりからして、なんとなく聞いていた安里たちは察する。きっと彼女は、川上の事を憎からず思っていたのだろう。……その思いも、ついさっきまで忘れていたはずだが。
「……じゃ、これ」
「ラインですね。どうもありがとうございます。こちらで、後から連絡してみますね。……あ、あと、ご自宅なんかも教えてもらえれば。ご存じですか?」
「悪いけど、そこまでは私も」
「まあ、そうですよね。じゃ、これ。お礼です」
安里はにこやかに笑い、彼女に15万円を握らせた。その金額に、彼女は目を丸くする。彼女が風俗で働いても、1日では滅多に稼ぐことのできない額だ。
「……あの、これ……」
「もちろん、口止めも込みです。……よろしくお願いしますね?」
そう悪戯っぽく阿安里が笑い、彼女を事務所から丁重に送り出す。―――――――と、もらったラインのメモを、彼はゴミ箱に捨てた。
「さて。彼女の通っていた中学校から、住所は割り出せるので。かわかみ、かわかみ……と」
パソコンを安里が叩くと、ちゃっちゃっと川上哲郎の個人情報が露になっていく。そのスピードは、朱部が高校のコンピュータをハッキングする速度よりもはるかに速かった。
「住所、家族構成、小学校、中学校での主な出来事……などなど。あ、と、は……個人のPCの中に入っているデータ……と」
いろいろな情報を引き出していき、それらを片っ端から自身の記憶媒体へと入れていく。そしてある程度調べ終わった後、ふう、と息を吐いて、自分の肩を揉みしだいた。
「……安里さん、終わったんですか?」
「はい。残念ながら、スマホのデータはなかったですけど。クラウドに入れてなかったみたいで」
「中には、どんな……?」
「うーん、何と言ったらいいんですかねえ。……とりあえず、春奈さん」
「はい?」
「貴方は一旦、見ない方がいいかもです」
春奈にそう念押しした後、安里は一旦朱部にのみ、手に入れたデータを見せた。一通り「ふん、ふん」と頷いたのち、朱部は首を横に振る。
「――――――ダメよ。見せられないわ。口頭の説明のみにしなさい」
「ですよねえ」
安里はそう言って笑うと、愛をちらりと見やった。
「えー、じゃあ、次。愛さん。これでお伝えしますね」
そう言って、安里は愛にあるものを手渡す。紙コップの底に糸が付いた物体。平たく言うと、糸電話だ。
「……え? 事務所の中ですよ?」
「はーい、遮断しまーす。パーテンション、パーテンション」
安里がそう言うと、朱部がどこからかパーテンションを出してきて、所長である安里のデスクと、愛たちがいる応接用ソファの間に壁を作ってしまった。そうまでして見せたくはないのか。
仕方がないので、愛も糸電話を耳に当てる。そこからは、安里の声が聞こえてきた。
『えー、これ、春奈さんには絶対に言わないでください。今言ったら、発狂する可能性がありますので』
そう前置き、安里はさらに、とんでもないことを告げる。
『川上さんのPCに、春奈さんとのハ●撮り動画がありました。それも、何本も』
あまりの言葉に、愛は気を失いそうになった。
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