4-ⅩⅩⅣ ~沖縄滞在最終日~

 翌日。蓮たちの沖縄滞在の最終日になる。


 拠点の安里家で、蓮たちは揃いも揃って座り込んでいた。というのも。


「……どうする? 今日……」


 なーんも決まっていなかったのだ。よりにもよって、今日のスケジュールが。

 夕月はテレビの仕事に行ってしまったし、安里についてはボーグマンの修理があるので午前中いっぱいは家にいる。夢依はオバーに膝枕されていた。おとなしく丸まって優しく撫でられる様は、さながらコーギー犬だ。この様子だと、5分もたたずに夢依は寝るだろう。

 朱部は朱部で、どこから引っ張り出したのかパソコンで何やら作業をしている。何やっているのかと聞けば、事務所のブログの更新だそうだ。そんなの、やってたことすら知らなかった。

 そんなわけで、手持無沙汰なのは蓮と愛の二人のみ。しかも部外者なので、安里家にもなんとなく居づらい。


「……どうする?」

「どうしようか……」


 そう思ってなんとなく、古宇利島の海岸に向かう。安里家のある住宅地は、さほど遠くない位置にあった。


 海岸に行くと、結構な数の車が止まり、水着のお兄ちゃんお姉ちゃんがキャッキャウフフと水遊びにしけこんでいる。


 弾ける水しぶき、日に焼けた肌、揺れる双丘……。そんなものを、ぼんやりと眺めていた。


「ほおー……」


 夏真っ盛りに沖縄に来ておいてなんだが、蓮たちは水着を持ってきていなかった。なので、することといえば、海岸とアスファルトの境目のブロック岩に座って、はしゃぐ若者を見つめるという、お年寄りみたいなことだけだ。


「元気だな、どいつもこいつも」

「ねー」


 近くの海の家で買ったサイダー片手に、二人は海を見つめる。

 なんだかいいムードに見えるかもしれないが、そんなことを二人は考えていなかった。蓮は「暑い……」とつぶやき、愛に至っては「あの人たちサメの餌っぽいなあ」などと考えている。

 古宇利橋の向こうの沖縄本島からは、続々と車が向かってきていた。この島の海岸は夏のスポットの一つなのだ。

 座ってぼんやりしているだけの自分たちとは違って、かなり沖縄をエンジョイしているのだろうと、蓮は思う。


「……あれ?」


 愛がふと、首をかしげた。海で遊んでいる人たちと違い、古宇利島に来る人たちの表情に、楽しんでいる感がないのだ。


「蓮さん。なんか……変じゃない?」

「あ? 何が」

「ちょっと……多いなって」


 いつの間にやら、古宇利橋には大量の車が並んでいた。そして、あっという間に渋滞になる。橋を渡り切った車も、慌てるように島の中へと入っていく。


 確かに、観光やら遊びに来た感じではない。


 何事かと眉をひそめていると、愛のスマホが鳴った。愛の友人である、平等院びょうどういん十華とおかからの着信だ。


「もしもし、十華ちゃん?」

『あなた、大丈夫なのっ!?』


 電話からの声は、電話から距離がある蓮にも聞こえるほどの声量だった。スピーカーでもないのにすさまじい声量で、耳元で叫ばれた愛は思わず目が回る。


「な……何が?」

『何がって……あなた、今沖縄にいるんでしょう!?」

「え? そうだけど」


『沖縄、大変なことになってるんじゃないの!?』


 二人そろって、目が点になる。


「え?」

『え、知らないの?』

「いや、私たち、今古宇利島にいるんだよね……本島から離れたところの」

『そ、そう……』

「と、とりあえず、私たちは大丈夫だから。ありがとうね、心配してくれて」

『え、ええ』


 そうして電話を切ると、今度は蓮の電話が鳴る。電話の相手は、蓮の後輩の槍尾やりお慎太郎しんたろうだ。


「もしもし。……一応言っとくけど、無事だぞ」

『あ、本当ですか。良かった……』

「心配いらねえって。……何が危ないのかは知らねえけど」

『そ、そうなんですか?』

「ああ。逆に聞きたいんだけどよ、今沖縄って何が危ねえんだ?」


『……怪人が暴れてるんスよ! 那覇市で!』


 慎太郎いわく、赤い大蛇と白い毛むくじゃらの怪物、そして頭にヤシの木をはやした顔のでかい怪人が街中で大暴れしながら進んでいるのだそうだ。


「頭に、ヤシの木……?」

『とにかく、気を付けてくださいね。それじゃ』


 慎太郎からの電話を切り、蓮は大きなため息をついた。

 間違いない、あいつらだ。あいつらが本土に攻め入ってきたのだ。

 となると、理由もなんとなくだが合点がいく。


「だ、大丈夫?」

「ああ。……面倒なことになってきたぞ、俺らも巻き込まれそうだ」

「え、どうして!?」

「街で、あの島の連中が暴れてるんだってよ」


 蓮がそういったところで、再び携帯が鳴る。見れば、妹の亞理亞からだった。普段めったに電話してこないのに珍しい。やっぱり心配なのだろうか。そう思い、蓮は電話を取った。


「……もしもし、俺は……」

『あ、兄貴? お土産なんだけどさ、紅芋タルトも有名みたいだからお願いしたいんだけど』

「……ニュースくらい見ろお前はよぉ!」


 それだけ叫んで、蓮は電話を切った。

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