4-ⅩⅩⅢ 〜やっとこさの帰還〜

 港から喜屋武漁港に帰ってきた時、漁師たちからは大目玉を食らった。

 芸能人を拾って帰ってくる予定だった船が、帰ってきた時にはボロボロになっていたのだから、無理もないだろう。


 大騒ぎになりかねない中、蓮たちはこっそりと朱部の運転で港を後にした。


「い、いいのかな、皆置いてきちゃって……」


 車の後部座席にて、夕月が言う。安里たちが帰る中、彼女だけを引っ張ってきたのだ。


「構いませんよ、マスコミの対応ならほかの人に任せましょう」


 きっと芸人やアイドルやらが、押し寄せる野次馬に対応してくれるだろう。そんな物の相手を、伯母にはさせられないという、安里の独断だ。


 そうして、全員が大急ぎで古宇利島に帰ると、安里家に急行した。

 無事に帰ってきたことを安里家一家は喜び、涙を流して抱き合っていた。


 それを傍から眺め、やれやれとホテルに帰ろうとする蓮の肩を、安里が掴む。


「……なんだよ。こんな時くらい家族水入らずの方がいいだろ」

「そう言うわけにも行かんのですよ。修理、手伝ってください」


 安里家の庭にはボロボロのバラバラになったボーグマンが転がっていた。巨大生物から逃げるときに、無茶させ過ぎたのだ。


「お前ひとりでやれよ、それくらい」

「手が足りません」

「嘘つけ、最悪生やせばいいだろうがよ」


 などと言いつつも、ボーグマンは今回の脱出の立役者でもある。直してやれるなら直してやりたい気持ちもあった蓮は、渋々付き合った。と言っても、必要なパーツを集めたり、補強したりするだけだったが。


「それにしてもよお、何だったんだろうな、アレ」

「ホントですよね。水中での生体反応、アレだったのかもですね」

「ああ、そういや言ってたな、んなこと」


 島に向かうとき、村だという遺跡の近くの海の中を通っているときに、朱部が生体反応を見つけていた。急いでいたのでスルーしたが、もしかしたらそれの正体はあのデカブツだったのかもしれない。


「しかし、なんで襲ってきたのかねえ」

「縄張りでも入っちゃったんじゃないです?」

「あー、そうかあ、そうかもなあ」


 適当に言いながら、蓮はボーグマンの足らしき部分を拾い上げた。ところどころ焦げており、断面もズタズタ。本当に直るのかコレ? とも思ったが、そのあたりは安里に丸投げだ。


 そもそも、縄張りを荒らしたというのであれば、なんで水中では襲ってこなかったのか、という疑問も湧くが、次第に面倒くさくなってきたのか「なんとなく」だと結論付ける。


 そして、もう一つ、蓮には気になる疑問があった。

 

「そういえばよ……」


 そう言いかけたとき、愛から「ご飯ですよー」という声が上がる。小さな疑問より目の前の飯だ。そもそも、小さな疑問など蓮にとっては些事である。


「……行くか」

「おや、いいんですか?」

「ああ、また思い出したら話すわ」


 そうして、蓮と安里は家の中へと入っていった。ボーグマンの修理進捗は40%といったところ。まだまだかかりそうだ。


**************


「心配だわ……」


 夕飯の玄米を食べながら、夕月はため息をついていた。

 すっかり夕方だが、ディレクターたちとの連絡が取れないらしいのだ。


「まだ帰ってきてないんですか?」


 連絡が取れない、というのは、電波も届かないところにいるということらしく、ラインの既読もつかなければ、通話もできないところにいる。

 となれば、あの島にまだいる、と考えるのが妥当なところだろう。


「何かあったのかしら。あの……精霊? たちと、トラブルでもあったんじゃ……」

「問答無用で襲ってくるような奴ですからねえ。ま、話さえできれば丸め込めそうですが」


 何しろ自分で宝のことをバラすような連中だ。蓮たちはさほど興味はなかったが、あの面々は少し目の色が変わっていた。


(……もしかしなくてもよ)

(十中八九、それでしょうね)


 そもそも、そのために邪魔な蓮たちを先に帰したのだろうと踏んでいる。宝に興味もなかったし、さっさと帰れるなら帰るに越したことはないと思っていたので甘んじて受けたが。


「大丈夫かしら……あんな化け物がいたんじゃ、帰るにしても危険だわ。……まさか、もう襲われたんじゃ……?」


 夕月が嫌な想像に、顔色を青ざめさせた時だ。ラインの通知音が、ポコンと鳴った。

 画面を除くと、ディレクターからの通知だった。


「今本島に着きました」という短い文章が、メッセージ欄に明記されている。


「あ、連絡来た! 今本島に着いたって」

「ああ、良かったですね」


 一気に顔に血が戻ってきて、夕月はほっとした表情を見せる。


「……さて、じゃあ、晩御飯食べよか」


 オバーの一言で、一同は残っていた玄米を残さず平らげた。


**************


 深夜の海を、ゆっくりと動く影がある。

 その影は、船というには異様な面持ちだった。何しろ、うねうねと動いているのだ。巨大な影が、ゆらりゆらりと海を滑っていく。


 その上には、巨大な毛むくじゃらと一本の木が揺れていた。


 遠くから見れば、その影からは激しい怒気が見て取れるだろう。


 影は、まっすぐに沖縄本島を目指していた。


 そして、その影の真下。海の底でも、同じように動く影が一つ。

 その影は異様に巨大であり、上の影と意思疎通は一切していない。


 だが、海底の影も間違いなく、沖縄本島へと向かっていた。

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