16-ⅩⅩⅩ ~ファイナル・ゲーム前~
その行方を知るものは、誰もいない。病院から引きずり出した蓮でさえも、だ。それに、蓮にとってあんな男の末路など、どうでも良いことだった。
そんなことよりも、宮本が革命に参加できなくなったことが、あくまで蓮たちには重要なことである。寮に戻って来るや否や、彼女は自室に引きこもってしまった。そしてその日の夜、彼女は部屋から失踪してしまったのだ。
「……まさか、宮本が?」
「ああ」
「……じゃあ……」
「最後の戦いは、俺とお前の2人だけになりそうだな」
中村は負傷、宮本は失踪。そうなると、残りは蓮とゼロの2人だけだ。正直ここまでほぼ蓮だけの力で勝ち上がってきたので、大して変わらないと言えば変わらないのだが。
「……そうか……」
それをわかりきっているゼロは、ため息とともに頷く。この溜息は戦力ダウンの不安というより、仲間を失ったことに対する悲壮によるものだ。
「俺としちゃ、
「いや。ここまで来たら、行くとこまでやってやるさ。……俺たちは、勝つ」
「……そうかい」
ここまで走り続けてきた2人に、もはや迷いはない。それに、ここでやめたら、病院にいる中村に申し訳も立たない。
「とはいえ、3―Aは流石に一筋縄じゃ行かないだろうな。なんせ、あのミチルがいる」
「それなんだがよ。……ちょっと聞きたいことがある」
「何だ?」
「お前のESPだよ。全然、使ってるところ見たことねえんだけど」
蓮の言葉とジロリとした視線に、ゼロは目を丸くした。
「……あれ、言ってなかったっけ」
「聞いたことねえぞ。見たこともねえし」
「……そうか、言ってなかったか……」
ゼロは懐から煙草を取り出すと、ふぅ、と煙をくゆらせた。
「――――――この際だから、きっちり話しとくか。俺のESPはよ、実を言うと、ESPじゃねえんだ」
「あん?」
「ちょっと地元の不良の筋でさ。それっぽい能力になるように、身体をいじれる奴を紹介してもらったんだよな」
ESP値が蓮を除いて歴代最下位なのも、そのためだ。この男も蓮同様、インチキでこの学園へと入学したということである。
「だからよ、俺のESP、かなり不安定なんだよ。身体への負担がでかくて。だから、
だが、その温存ももはやここまで。最後の戦い、ゼロは蓮がどれだけ強かろうと、参戦しないわけにはいかない。
「――――――最後まで頼むぜ、相棒」
「……ったりめーだ。やるからには、絶対勝つ」
そう言い、拳と拳を軽くぶつけ合う。
最後の決闘の予定が公表されたのは、その翌日の事だった。
******
「――――――まずは、紅羽くん。不当な罪を疑って、済まなかった!」
生徒会長の湯木渡ミチルに呼びだされた蓮とゼロは、生徒会室へとやって来ていた。そして、やって来て早々、頭を下げるミチルに、蓮たちは目を丸くする。
「……別にいい。疑われるのは慣れっこだし、真犯人も知っての通りだからな」
「本当に、言葉もない。彼らは自主退学したと、学園からは聞いている」
そうなったのか。本当は半ば拉致に近い形で、地獄へと送ったのだが。まあ、あんな問題児、学園としても手放したいのだろう。つまりは、見捨てられたのだ。
「……で、わざわざ呼び出したのは謝るだけか? それだけじゃないだろ」
「……ああ。私たちの決闘の日どりと、ルールについてだ」
「ルール?」
首を傾げるゼロに、ミチルは書状を突き出した。それは、ゼロも見たことがある。
自分たちが革命を進めるためにクラスメイトに書かせた、「委任状」。3―Aの生徒たちの名前が書かれたそれが、ミチルの手にはあった。
「我々も代表を選出し、闘うこととした。代表となるのは、もちろん私。それと、ライカの2人だ」
ミチルが指さす先には、席に座っている鉄仮面の副会長、天竜ライカがいる。
「――――――最終決戦は、正真正銘、2対2の勝負だ」
「……何だよ。お前ら、最強の精鋭集団だろ? それが、何で兵隊を減らす必要がある」
「私は死兵を用意するつもりはない」
つまりは、他の面々も足手まといという判断、ということだろう。まあ、蓮相手であれば、妥当な判断である。
「会場は、学園内の闘技場。全校生徒、教員の見守る中での戦いとなる。ルールは、1対1の勝ち抜きだ」
2対2のうち、互いのチームは1人ずつ選出し、1対1で戦う。そして勝った選手は、次の相手と連続で戦うこととなる。
「そして、2名が先に敗北したチームの負け、ということだ」
「……解せねえな」
蓮は思ったことを、素直に呟いた。
「こんなの、俺が最初に出れば終わりじゃねえか。……このルール、テメエらに何のメリットもねえだろ?」
「それは……」
「――――――私の指示ですヨ、ミスター・紅羽」
蓮の背後から声がする。振り向けば、背の高い欧米系の顔をした老人が立っていた。
「……何だ、テメェ?」
「ハハハハ、そう言えば君とは初めて顔を合わせますネ?」
老人はピシッとお辞儀をすると、名刺を差し出した。その名前を、蓮は聞き覚えがある。
「……チャールズ・ヴァンデラン……」
「――――――この学園の理事長よ」
ミチルの言葉で、蓮はようやく思い出した。確か、安里がそんな名前だと言っていたような。それに、才我の特別推薦の手紙にも、その名前はあったはずだ。
「君たちの
「……だから、イベントにして盛り上げようってか」
「ザッツ・ライト! そういうわけですから、いい勝負を期待していますヨ? 皆サン 」
チャールズはニヤリと笑いながら、指をパチンと鳴らす。
蓮にはそれが、ひどく不快に感じた。
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