7-ⅩⅩⅩⅡ ~カリンVSカーネル~

「だーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 カリンの拳が、カーネルの拳と衝突する。その衝撃にカリンは顔をしかめるが、カーネルの方も顔をしかめている。


(……やはり。この鎧がレッドゾーンということか)


 先程から、電撃を拳に乗せているのに、この鎧のせいで全く通らない。おかげで電撃はあちこちに逃げ、周囲は穴だらけだ。

 鎧が強い耐電性を持っていることは、間違いないだろう。


(それに、この強度)


 拳を打ち合うだけで、すぐにわかる。あれは、硬度そのものが武器となっている。下手に攻撃すれば、硬度負けした肉体の方が損傷するのは自明の理。


(……なるほど、アザト・クローツェが念押しするだけのことはある)


 そもそも、アザト・クローツェは、他人の勝負事にあまり興味を持たない男だったはずだ。それが、「絶対に勝てない」とまで言うのだから、その実力は相当なものだろう。


(……なるほど、コイツ相手なら……!!)


 カーネルは、再び腕に電撃を溜め始める。


「周りごと吹き飛ばす気か!!」

「了解、回避する!!」


 カリンが、後ろに飛んだと同時。


 凄まじい爆発で、周囲の建物諸々が吹き飛んだ。


「……あ、あっぶな……!!」

「街中だってこと、忘れてんじゃないだろうな、アイツ……」


 もうもうと、煙が立ち込める。視界が悪く、何も見えない。


「……カーネルは一体どこに――――――」


 そう、カリンが呟いた瞬間、蓮は気づいた。


「オイ、跳べ!!」

「え!?」

「いいから跳べッつってんだよ!! 下だ!!」


 蓮の言葉に言われるがまま、カリンはジャンプする。

 それと同時、何かが凄いスピードで足下を通り抜けた。


「―――――――っ!?」


 回転する、ブレードのような何か。雷光を纏っていたところを見ると、カーネルに関連するものだという事は間違いないだろう。


 それは、建物にぶち当たると、何の抵抗もなく通り過ぎる。


 そして、通り過ぎられた建物は、音を立てて崩れ出した。


「……ええええーーーーーっ!?」

(……ぶった斬ったってのか!? あれを!?)

「……あ!!」


 崩れ落ちる建物の中、カリンは見てしまった。


 中に、女の人がいるのを。


「中に、人が!」

「何だって!!?」


 おそらく、男の魔の手を逃れて、隠れていたのだろう。


 蓮が何か言うまでもなく、カリンは建物へと突っ込んでいく。


 そして、倒れる建物を、下から支えた。


「ぐううううううううっ!!」


 凄まじい重量が、カリンと蓮にのしかかる。


(……だが、耐えられない重さじゃ……)

『紅羽さん、後ろ!!』


 唐突に、サキの声がする。後ろを見やると、先ほどの回転刃が、こちらに向かって迫ってきていた。


(…………ブーメランかよ――――――っ!!?)


 今度は、避けられない。避ければ、上の女の人が死ぬ。もろとも躱すという芸当は、現在の出力では到底できなかった。


「……背中に出力、集中しろ!!」

『で、でも……!!』

「動かさなけりゃ、負担もねえだろ!!」

『……出力、部分展開します!!』


 サキの号令とともに、回転刃がカリンの背中にぶち当たる。


「カリン、お前じっとしてろ!!」

「え、でも!?」

「いいから!!」


 回転刃は、蓮の鎧を切り裂くことはできなかった。だが、勢いが止まるわけでもなく、回転は依然続いている。赤い火花が、金属同士がぶつかり合って激しく散っている。


「ぐ、グググググググググ……!!」


 身動きの取れない蓮だったが、気合を必死に入れていた。


「……だりゃあああああああああ―――――――――っ!!」


 気合のおかげか、少し鎧が膨張したのか。鎧が、回転刃を弾き飛ばす。後方に吹き飛ばされた回転刃は、カリンの横を通って、前へと通り過ぎていった。


「……苦労するな、貴様も」


 煙の中から、カーネルが現れる。回転刃の正体を持って。


「あ……あれって……」

「……おいおいおいおい、マジかよ!!」


 持っていたのは、雷でできた投擲斧トマホーク。ただし、カーネルの持つそれのサイズは、普通の斧よりも刃が倍くらいデカい。

 そして、なにより、片手ではない。両手だ。


「……二刀流か!!」

「そーいうことだな」


 カーネルが、こちらめがけて走り出す。


「カリン、早くそれ置け!!」

「え!? あ、うん!!」


 蓮の指示で、カリンはすぐに持っていた建物をそっと置く。


 もう、カーネルは迫ってきていた。


「ダッシュ!!」

「え?」

「いいから!!」


 言われるがままに、カリンは前へと走った。ちょうど、カーネルのいる方向である。


「っ!?」


 タイミングがずれたのか、カーネルが両方の斧を振り上げるタイミングで、カリンはカーネルの懐に入っていた。


「パンチ!」

「だあっ!!」


 むき出しのカーネルの胸に、カリンの拳がヒットする。


「ごうふっ!!」


 浅い入りでも、硬度が武器の拳のダメージは十分。カーネルの口から鮮血が漏れる。

 だが、その程度では倒れはしない。すぐさま反撃で横なぎに斧が飛ぶ。


「ガード!!」

「は、はいっ!」


 腕を上げると同時、刃が腕の装甲に当たる。大きな音を立てて、斧は弾かれた。


「そのまま腕伸ばせ!!」


 伸ばした腕がパンチとなって、カーネルに入る。


「ワン・ツー!!」


 ダメージに下がったカーネルの顎めがけて、左右のパンチが入る。右の拳が入った時、カーネルは大きく後ろに吹っ飛んだ。


「やった!!」

「違う、あれはわざとだ!! 距離空けられんな、詰めるぞ!!」

「はい!!」


 カリンは蓮の指示に従って、カーネルとの距離を詰める。


「ぬう……!!」


 カーネルは距離を取るように、後ろに下がる。接近戦を嫌がっているのは明らかだった。


*********


「す、すごい……」


 オペレートしているサキが、思わずつぶやく。

 あの僅かな攻防で、カーネルの間合いとリズムをつかんだのだ。

 元々、蓮はゴリゴリの接近戦型。パワーがあるが武器を使うカーネルと比べれば、間合いはより狭い。そのため、相手の懐で徹底的に戦うスタイルになる。それが、鎧になっても現れているんだろう。


「いやあ、凄いのは正直、カリンさんの方なんですけどね」


 急造コンビで、こうも連携が取れるというのは、大したものである。普通は、指示があってもそう簡単には合わせられない。


「何か、別の面での繋がりでもあったんですかね?」


 確か、カリンは蓮の妹の同級生だと言っていたけれど。となると、顔見知りでもおかしくないわけで。


 だが、蓮はカリンの詳細については、知らないようだったが……。


「もしかして……」


 安里は、ちらりと愛を見やる。愛は、ルーネレスの手当てで汗を流していた。


(……ま、今はいいか)


 帝国には、エイミーも戻っている。正直、今のままでもカーネルとは互角に戦えるだろうが……。


(……とはいえ、問題もある。肝心のトリプールをまだどうにもできていないこと)


 そして、もう一つ。

 安里は、スマホの画面を見やった。

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