7-ⅩⅩⅩⅠ ~帝国(1人)の逆襲~

「――――――「ワイ・クロマゾム・ストロンガー」ですが……。地球には、その影響はないでしょうね。物理的な距離が遠すぎるでしょう。何より、ここにいる僕らが強化されていないのが、その証拠です。すぐ近くに、木星へのゲートがあるのに」


 木星への突入前、ブリーフィングにて安里は言う。


「という事は?」

「処刑寸前のお母さまを抱えて戦うつもりですか、あなたは」


 エイミーは、そこまで言われて、ようやく合点がいった。


「――――――一度、地球に戻ってくるという事か!!」

「ええ。こちらに戻ればお母様はこちらで保護……というか、保管はできます」


 途中で言葉が詰まったのは、明らかにフルムント戦線の人たちが嫌そうな顔をしたからだ。とはいえ、人1人を抱えて、あのカーネルと戦えるわけもない。

 ルーネレスたちの手当ては愛たちがやる、という事で、ひとまず納得はしてもらえた。


「だが、追っ手はどうする。強化された宦兵かんぺいたちはおそらく、相当な強さだが――――――」

「まあ、逃げ切るのは頑張ってもらうほかないですね」


 安里はうんうん、と頷きながら言う。


「それで、逃げ切った後は――――――」


*********


 途中、宦兵の攻撃を2,3度剣で受けながら、エイミーは必死で走った。抱える母は、やはり頑丈なようで、息はある。手足は焼け焦げているが、命はまだつながっているようだった。


(……もう少し、もう少しだ……!!)


 宦兵は去勢しているためか、性欲というものがない。そのため、こちらに対しては、一切の躊躇なく殺そうと迫ってくる。これほどまでに恐ろしい存在だという事は、今まで知る由もなかった。


 宦兵たちの攻撃を躱すさなか、束ねていた髪が切り落とされる。それがどうした。生きていれば勝ちだ。


 城へと走り、ゲートへと向かう。近くにあった瓦礫を足元にばらまき、少しでも時間を稼ぐ。


 そして―――――――。


「あああああああああああああああああああ!!」


 ゲートへ、母ともども突っ込んだ。

 そして、そのまま豪邸の床に倒れ伏す。


 全力疾走して息が切れる中、宦兵たちもゲートを通って、こちらへ向かおうとする。エイミーは母を引きずりながら、ゲートのある部屋を出た。


「エイミーさん!!」


 部屋を出てすぐのところに、愛が立っていた。エイミーは彼女の顔にふっと笑うと、抱えている母を託す。


「……頼んだ」


 エイミーの言葉に、愛は頷いた。そして、ルーネレスを抱えて、部屋から離れる。


 エイミーは、部屋の入り口から一歩も動かなかった。そこに、クレセンタの宦兵たちがゲートを通ってわらわらとやってくる。


「……観念したか、エイミー・クレセンタ」

「……くくく……ふふふふふ……」


 エイミーは突然、笑い出す。宦兵たちは、驚いた様子で見やっていた。


「お前たち……私が誰か忘れたか?」


 スピリットの剣を出して、エイミーは宦兵たちに向ける。


「皇位継承権第1位、エイミー・クレセンタだぞ!! 貴様らごときにやられる道理など、微塵もないわ!」

「戯言を……っ!!?」


 言いかけた時には、宦兵の一人は、既にバッサリとエイミーの剣によって両断されている。


「ば、バカな!!」

「急に、速く――――――!?」

「なんだ、お前ら。気づいていなかったのか?」


 エイミーは、ギラリと歯を見せて笑う。その目は、まるで竜のように鋭い。


「何の種も仕掛けもなく、急にお前たちが強くなるわけなかろうが!!」


 地球へやって来た宦兵は、あっという間にバラバラになった。


*******


 木星の宮殿側からゲートを覗き込んでいた宦兵の頭に、剣が突き刺さった。

 鮮血をぶちまけて倒れる兵の前に、血まみれのエイミーが現れる。


「き、貴様……!!」

「お前たち、地球に行くのはよした方がいいぞ? 今の優越感を味わえなくなるからな」


 剣の峰を肩に置き、エイミーはギラリと笑う。

 宦兵たちは、黙って剣を構えた。


「……くくく、いいぞ。そうでなくてはな」

「地球で我らが弱くなるなら、木星から出なければいいだけの事」

「その通りだとも。……だが、忘れていないか?」


 エイミーは剣を構え、大きく振る。


「帝都でなまくらしていた貴様らとは違う。私は――――――前線で、戦い続けてきた女だぞ?」


 エイミーから、プレッシャーがあふれ出す。それは身体強化された宦兵たちですら、たじろぐほどであった。

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