7-ⅩⅩⅩ ~処刑場、戦闘開始!!~

 帝都も、すっかり荒廃してしまっていた。労働力として働いていた男たちが一斉に蜂起し、女性たちは搾取される側になった――――――。新しい政治が始まることもなく、今は混沌と狂乱の宴に、全員が酔いしれているように見える。女たちをあちらこちらで犯し倒す男たちは、みな狂ったような笑顔に満ちていた。


「……これは……」


 女だとバレればその時点で襲われる。用意した外套に身を包み、町を慎重に進むカリンたちの目には、そんな光景がありありと映っていた。


「みんな、愉しそう……」

「それだけ、抑圧されてきた、という事なんだろうな」


 エイミーが、苦々しい表情を見せる。だが、それは男への侮蔑ではない。自分達が過去にしてきたことの重さによるものだ。


「洗脳されてるわけじゃ……ねえよな」

「あれが、自由になった者の姿だよ」


 その笑みに、恐怖を覚えずにはいられない。窓が閉め切られているのも、外に出ればたちまち襲われてしまうからなのだろう。だが、中には窓が割られている家もある。

 美しかったであろう町並みは、汚物とゴミにまみれていた。


『……おおよそ、国とは思えないですね』


 モニター越しに、安里が呟く。

 こんな狂乱が続けば、とてもじゃないが国家として成立などしないだろう。ただただ、破滅に向かう一方である。


『だからこその、女帝ルーネレスの処刑なんだろうな。一つの国を終わらせるのを見せつけることで、男たちの狂乱を国づくりに向かわせる目的もあるんだろう』


 ゲイリーも、自らの推論を話す。彼にとっては、一人の暴君が斃され、平和に向かう道のりでしかない。


「……ああ。だが、それではこの国の根っこは救われない」


 しばらく歩くと、人だかりができていた。大量の男たちが、宦兵に遮られる形で円を作っている。


「あれは……!!」


 円の中心には、十字架でつるされた、裸の女がいた。豪華な衣装も、圧倒的な覇気もなく、うなだれている女は――――――。


「――――――母上!!」


 見間違えようもない、ルーネレス・クレセンタだった。


「……あの人の、手足……!!」

「ああ、焼かれてやがる」


 その無残な姿に、蓮は思わず目を細める。

 ルーネレスの手足は、真っ黒に焼け焦げている。恐らく、抵抗できないようにカーネルが雷で焼いたのだ。それも、ショックで死なないように、かつ念入りに。


「なんてことを……!!」


 そんなルーネレスの頭に、石が当たった。


「さっさと死ね、バケモノ!!」

「くたばれ、クソ女!!」

「死ねー!」


 民衆の男たちが、思い思いに石を投げているのだ。そして、それを宦兵たちは、止めもしない。


「あいつら……!!」

「待て、まだトリプールが出てきていない」


 カリンが飛び出しそうになるのを、エイミーが手で制す。


「でも、このままじゃあの人が……!!」


 そう言いかけたカリンは、気づいた。


 エイミーの目に、涙が浮かんでいることに。


「……母上は強いお方だ、このくらいでは死なん。……死なんとも」


 辛くない、はずがない。実の母親なのだ。

 それを、信じて、じっとこらえて、機を伺っている。


 何も言えるわけがない。


「……待て、石が止んだ……!!」


 エイミーがそう言うと、にわかに男たちがざわざわとして、やがて歓声が上がる。


 拍手とともに、処刑台には複数の男が上がった。

 トリプールと宦官たち、そしてカーネルである。


(来た!!)


 トリプールはマイクを持つと、ぽつぽつと叩いて、話し出す。


「えー、皆さま。この度、わがクレセンタ帝国は生まれ変わることになります。長い間、無辜の民を苦しめてきた暴君、ルーネレス・クレセンタの死とともに。侵略国家、クレセンタ帝国は終わり、新たなる時代――――――自由で、戦争のない国が誕生するのです!!」


 トリプールの演説に、男たちの歓声が上がる。


「新しい国は、貿易と対話の国です。議会を造り、帝政を廃止し、国民の代表で話し合って、政治を作っていくのです。我々を疎ましく思う者もいるでしょう、貿易が上手く行かないこともあるでしょう。――――――しかし、粘り強く、戦ってきた我々には、そんな物は屁でもないはずです」

「その通りだ!!」

「女どもに差別されるよりマシだ!!」


 野次が口々に上がる。嘘偽りのない、国民の声なのは間違いないことだ。


「私たちは、いずれ立ち上がることができる――――――。10年前、我々に希望を見出し、決してあきらめることないよう励まし続けてくださった、大恩人を紹介しましょう。――――――地球の友人、雷霆カーネル閣下です!!」


 耳が張り裂けんばかりの拍手とともに、大柄の偉丈夫が躍り出る。カーネルは手を振ると、トリプールからマイクを受け取った。


「あー、ご紹介に預かった、カーネルである。この度は、このような国の歴史的瞬間に立ち会えて、非常に光栄だ。今まで弾圧されていた諸君は、よくやったと思う」


 そして、カーネルの手に、稲妻が溜まっていく。ちらりと、エイミーたちの方を見た気がした。


「……それでは、革命の成立を祝して、この女に雷槌を落とすことで、祝砲としよう」


 稲妻が溜まった手を、カーネルが上に掲げる。


 ――――――――――――今!!


 カリンよりも先に、エイミーが飛び出していた。


 そして、カーネルもそれに反応する。稲妻を溜めていた手をこちらへと向け、放つ。


「……エイミー!!」


 カリンがとっさに前へと出て、思い切り手を開いた。

 雷撃が、鎧となった蓮にぶち当たる。


「~~~~~~~~~~~っ!!」


 多少はじけるような感触はするが、問題ない。どちらかというと、電気そのものより、受け止めた衝撃の方が問題だ。


「ううううううううううあああああああああっ!!」


 無理やり、カリンが雷を上に弾き飛ばす。雷は近くの建物へと当たり、大爆発を起こした。


「……ほう」


 カーネルは、手で自分の雷を弾いた少女を見据える。


「ああああっ!!」


 カーネルの後方で、エイミーが処刑の磔刑たっけい台を切り落とす。ルーネレスごと倒れるはりつけ台を、エイミーは両手に抱えた。


「――――――逃げるぞ!!」


 エイミーの号令とともに、カリンも全速力で走り出す。


「――――――な!?」


 突然のことに、一瞬、トリプールたちは呆気に取られ、反応が遅れた。宦兵、そして民衆も、雷の衝撃に顔を下げている。


「エイミー……! 者ども、お、追え!! 追うのじゃ!!」


 トリプールは、咄嗟に宦兵たちに命じる。宦兵は、信じられないようなスピードで走り出した。やはり、「ワイ・クロマゾム・ストロンガー」の効果は、去勢していても有効らしい。


(……せめて、母上だけでも!!)


 城へと向かって走り去るエイミーを、宦兵たちが追う。

 それを止めようとカリンも向かうが、その前にはカーネルが立ちはだかった。


「おっと、お前は行かせん」

「っ!?」

「――――――俺はお前に興味があるんだ」


 カーネルが、両手に稲妻を纏いながら不敵に笑う。


「――――――私は、あなたなんて知らないよ!!」


 カリンも、それに対し、鎧を構えた。


(そりゃそうだろ、アイツが言っているのは……)


 カーネルの狙いは、最強の怪人レッドゾーン。


 つまりは、紅羽蓮オレだ。

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