7-ⅩⅩⅨ ~突入、クレセンタ帝国~

 超次元ゲートの前には、フルムント戦線の一同が集まっている。そして、エイミー・クレセンタ、ミスリル・カリン、紅羽蓮の突入チームの面々に、安里探偵事務所のメンバーも。


 ゲートのある豪邸には何人か見張りがいたが、それらはすべて蓮によって無力化された。あまりの手際の良さに、エイミーたちも口を開けるしかない。


「……何してんだよ、行くぞ」


 首を絞め落とす蓮に、一同は頷くしかなかった。


「……いつもやってるのか、こんなこと?」

「そんなわけねーだろ、たまにだよ」


 たまにならやるのか……。全員の思考が一致する中、豪邸の超次元ゲート前に、一同は陣取――――――らない。ゲートのチェックに一度は前に来たが、すぐさまゲートから離れた場所に本拠地を作り、そこでオペレートの準備をする。


「カーネルがここから飛び出してくるかもしれない」と安里がほのめかした結果、目の前にいるのは危険という判断になったのだ。ただ、カーネルが戻ってきた時にゲートを破壊するかも、という事で、ある程度の人員は隠れるように配置している。いても大して意味はないが。


(……まあ、仮に出てきても一目散に帰る手はずですしねえ) 


 安里はそう思いながら、スマホの時計を見る。何なら、ここまで突入されるのもすべて想定通り。絞め落とされた見張りも、一番の下っ端連中だ。何ら問題はない。


(……お膳立ては、ここまで)


 ここからは、行き当たりばったりの戦いになる。


「……覚悟はできているな、ミスリル・カリン」

「そっちこそ」


 エイミーとカリンは互いに軽口を叩き合っている。緊張はさほどしていないようで何より。


「じゃ、じゃあ……紅羽さん」

「……おう」


 カリンに言われ、蓮は立ち膝になった。そして額に、カリンは自分の額を押し当てる。


「……魂魄スピリット武装アムド――――――!!」


 蓮の身体から赤い光が走り、それがカリンの全身を纏っていく。

 あっという間に、最強の鎧が彼女の身体を包んだ。


「……おっし!!」

「行くぞ!!」

「……気を付けて!!」


 倒れている蓮の身体を引きずりながら、愛が2人に呼び掛ける。

 二人は親指を立てて、ゲートへと飛び込んだ。


*********


 ふわふわするような奇妙な感覚を一瞬覚えたが、意外とすぐに木星の地を踏むことになった。と言っても、結局はクレセンタ帝国の城の床だが。


「……ここが、クレセンタ帝国?」

「……ああ」


 ゲートのある部屋は、随分と荒れ果てている。ちらりと見やれば、血痕や破れた衣服の切れ端、そして体液の乾いた跡がある。ここでも何か行われていたことは明らかだ。


「ひっでえな……」


 鎧となった蓮がぽつりと言う。


『とりあえず、外に出ましょう。処刑の場所は……』

「公開処刑だと言っていたからな。帝都の中心部だろう」


 蓮から発せられるサキの声に、エイミーが答えた。

 鎧となった蓮は、戦線メンバーとの通信の役割も担っている。彼の見たものが戦線にもモニタ表示され、聞こえる音が音声になるのだ。


 部屋を出たところで、ふとエイミーが立ち止まる。

 そこは、あの中庭だった。


 ここにいた女兵士。カーネルから自分を逃がすために、自ら向かって行った彼女。

 彼女は、果たして無事なのか――――――。


「どうした?」

「……何でもない。行こう」


 エイミーはきっと顔を作ると、颯爽と歩きだした。


「……まて、止まれ!」


 エイミーが手を上げて、カリンも動きを止める。

 そっと覗き込むと、3人の男が一人の女兵士を嬲っているところだった。


「……っ!!」


 飛び出そうとするカリンを、エイミーが止める。


(なんで!!)

(……ここであいつらを倒し、あの子を助けても、何も変わらない。根本的な解決のためには、「ワイ・クロマゾム・ストロンガー」を破壊するしかないんだ)


 そうすれば、あんなごろつきなんぞに、彼女は負けない。


(……行こう。処刑まで時間がない)


 歩き出すエイミーに、カリンは動揺を禁じ得ない。


「……なんで、そんな冷たい事……」

「一回見てるからだろ、そんで、助けられないってわかったからだ」


 鎧になった蓮は、彼女の表情からなんとなく読み取る。

 あれは、一回絶望するだけして、立ち上がった顔だ。


「少なくとも、見捨てようなんて思っちゃいねえよ、あれは」

「……そうなの?」


 遠くから、エイミーの視線が見える。「早くしろ」と急かしているようだった。


「……行くぞ」

「うん」


 カリンも、蓮に言われて、再び歩き出す。

 処刑会場までは、さほど遠くない。

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