7-ⅩⅩⅩⅢ ~”怪人”カーネルの猛威~

 カーネルは、気づけば処刑場まで押し戻されていた。


「か、カーネル閣下!!」


 トリプールが焦る表情で叫ぶ。無理もない。カーネルが、殴られて吹っ飛んできたのだから。


「……ふふふふ、愉しいな、やはり。こんな国のザコどもでは味わえない、まさに強敵との戦いよ」


 歩み寄ってくるカリンも、息を切らしてはいる。蓮の指示に合わせてはいるが、それはつまり、蓮のペースで戦っているという事。女子中学生のカリンに、そのペースはきつい。


 だが、鎧の出力を下手にあげたりしていないおかげで、負傷したりはしていなかった。


「……当然よ、あなたなんかに負けないわ!!」

「ふん、借り物の力を纏うだけの小娘がほざくな」


 カーネルの言葉に、カリンに冷や汗が流れる。


(……この人、気づいている!?)

「……ま、待て!! この、女め!」


 そして、予想だにしていないことが起こった。

 カーネルの前に、一人の男が立ちはだかったのだ。……彼を…庇うように。


「この人を倒したいなら、俺を倒してからにしろ!!」

「そ、そうだ!」

「俺たちだって戦うぞ!! 折角手に入れた自由なんだ、奪われてたまるか!!」


 そして同じように、カーネルの前に、処刑を見に来ていた男たちが立ちはだかったのである。


「!!? そ、そんな……!! 皆さん、こいつは、この国の女の人たちを奴隷として売りさばこうとして――――――!!」

「それがどうした!! 俺らを迫害して私腹を肥やす連中だ、売られたって困らねえ!!」

「よそ者が、人の国の事情に手出すんじゃない!!」

「……っ!!」


 カリンは、衝撃だった。彼らにとって、女性が売られることなど、本当にどうでもよい事なのだ。

 それよりも、深い絶望と恐怖を、その女たちに植え付けられ続けてきたのだから。


「……で、でも!! あなたたちのお母さんや、お姉さん、妹も!! そうなるかもしれないのよ!?」

「……それには及ばんよ。男の家族を持つ女性には、特別人権を保障しておる。――――――もっとも、そうした途端、男に愛をささやく卑しい女が続出したがな」

「そ、そんな……」


 女たちの醜いさまを見てきた男たちは、完全に女を見限ったというのか。


「押さえつけろ!!」

「やっちまえ!!」


 そうこうしているうちに、カリンの身体に男たちがまとわりつく。バランスを保てなくなったカリンは、地面に倒れた。


「ああっ!!」

「てめえら、離れろ!!」


 蓮は叫ぶが、鎧の状態では何もできない。


「はっ……放して!!」


 振りほどこうとするカリンだったが、多くの男に気づけば覆い被られていた。


「……ほ、ほっほっほ、どうだ! わしらの自由は、誰にも奪えんのじゃ!!」

「……ああ、全くだな」

「閣下!! ご無事で……」


 そう言うトリプールの目が、大きく見開かれる。


 彼の持つ斧に、今までにないほどの電撃が溜まっている。


「……か、閣下?」

「おい、。聞こえるか?」


 カーネルは、もはやカリンの事など見ていない。鎧である、蓮しか見ていなかった。


「これが民意だ。美しいだろ? ……精々、守って見せるんだな」


 斧を、大きく上に振りかぶる。


「か、閣下!! お待ちください! それは――――――!!」

「出力、いっぱいまで上げろーーーーーーーーーっ!!」


 蓮が叫ぶと同時、カーネルの斧から、雷が落ち。

 処刑場の周囲100メートルほどが、大きく抉れ、吹き飛んだ。


*********


 大爆発にエイミーが処刑場にたどり着くと、そこには巨大な爆発跡があった。


「……これは……!?」


 先程まであった、処刑台は跡形もない。

 そして、気になるのは、爆発跡の端。

 男たちが、まばらに倒れている。


「……こいつらは……」


 近づけば、どうやら息はあるようだ。気絶しているようだが。

 一体、何があったんだ。

 エイミーは爆発の中心地へと急ぐ。

 そして、そこで目にしたものは――――――。


「――――――カリン!!」


 両手を広げて、立っているカリンの姿がある。だが、様子がおかしい。


 その身体からは、煙が上がっている。そして、彼女の目の前に立っているのは、雷霆カーネル。その後方に、トリプールと宦官たちが、ひきつった顔でカーネルを見やっていた。


「おお、来たな。宦兵どもはみな殺されたか」

「カーネル……!!」


 エイミーはカーネルへの警戒をしつつ、カリンへと近寄る。


「カリン、大丈夫か!! オイ……!!」


 そこで、気づいた。


「……えへへ。ちょっと、やっちゃった……」


 この娘、立つのもやっとである。


「……何が、あったの!?」

「……ここの男どもに押さえつけられてよ。あの野郎、まとめて消し飛ばそうとしやがった」


 鎧状態の蓮が、代わりに説明する。


「それで、無理やり出力上げて、爆発範囲の外側までぶっ飛ばしたのはいいけどよ……」

「反動で、身体ボロボロになっちゃったんだあ……」

「……市民ごと、だと?」


 エイミーは、カーネルをきっと睨む。


「貴様……!! 何のつもりだ!!」

「か、閣下!! その通りでございます!! どうして、民まで巻き添えにしようと……!?」


 珍しく、トリプールが声を荒げている。このことは、彼も予想外だったらしい。


「どうしても何も、あんなところにいたら巻き添え食らうに決まっているだろう」

「だからって、まとめて雷を当てようなどと……あなたは、この国を救った救世主ではありませぬか!?」


「――――――誰が、そんなことを言った?」


 カーネルの冷徹な眼光に、トリプールはひるむ。


(……ま、当然ですね)


 モニター越しに聞いている安里しか、彼の事を理解していないだろう。

「俺は最初から、この国を救う気などない。そんなことは、最初からわかっていただろう?」

「し、しかし!! 俺のことは、好きに呼べと、10年前のあの時――――――」

「お前らにどういわれたところで、俺の在り方は変わらん」


 クレセンタ帝国に攻め込んだのは、ただの人足集め。

 帝国の数字を上げていたのは、ただ女帝を追い詰めて楽しむため。

 そして、革命に助力したのは、奴隷売買で儲けるため。

 それ以上でも、それ以下でもない。


 それが、カーネルの在り方だ。


「俺はお前らを最大限利用した。お前らだって、俺を利用しただろう」


 トリプールは、ペタリとその場にへたり込む。


「そ、そんな……」

「国民どもも、思いのほか使えたな」


 動けないカリンを見て、カーネルはニヤリと笑う。


「……まあいい。久々に楽しかった。レッドゾーンとも、こうして一手交えることができたわけだし……。今度は、ぜひ地球で戦いたいところだが」


 そう言い、カーネルは歩き出す。目的地は城だ。


「ど、どちらへ?」

「帰る。最初からその予定だと言ったろう。宇宙の旅、達者でな」


 手を上げて、カーネルはそのまま歩き去ろうとする。が――――――。


「――――――待て」


 彼の首元に、剣先が当てられている。


「何だ、お前に用はないんだが」

「これだけのことをして――――――ただで帰れると思うなよ!!」


 にらみつけるエイミーに対し、無造作に斧が振り下ろされる。

 だが、エイミーはそれを剣で弾いた。


(やるな、だが――――――) 


 斧に纏わっていた電撃は、容赦なくエイミーの肉体を襲う。


「があああああああああああああああああああああああああ!!」


 絶叫が、処刑場跡に響いた。


(やはり、レッドゾーンの鎧でなければ、そんな受けきることは―――――)


 そんなカーネルの思考は、途切れざるを得なかった。

 電撃を受けたはずのエイミーの剣が、止まることなく襲い掛かってきたのだ。


「――――――――ッ!?」


 咄嗟に躱したカーネルだったが、腕の肉を浅く切り離される。


(……バカな。この女に、雷への耐性があったのか……?)


 怒りにカーネルを睨みつけるエイミーの様子が、少しおかしい。

 心臓ではなく、全身が脈動している。そして、彼女の肌も。


 何より、妙だったのは、宦兵を皆殺しにしてきたというが、木星にいた兵も倒してきたというのか? いくら前線で戦う女でも、「ワイ・クロマゾム・ストロンガー」は、作ったモガミガワ曰く、「どんな貧弱な男でも歴戦の女騎士を手籠めにできる」をコンセプトに造ったと言っていたが。訓練した兵なら、より強さは現れるはず――――――。


 となると、考えられるのは2つ。一つは、兵が思いのほか弱かったという事。

 そして、もう一つは。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 エイミーの身体が、異様な変質をしていく。ウロコ、牙、尾、翼が生え、腕は肥大化し、爪が――――――。

 その姿に、カーネルは邪悪な笑みを浮かべる。


「―――――――実に良い。最高だぞ、エイミー・クレセンタ!!」


 さながら竜人ドラゴンとなったエイミー・クレセンタは、虚空へ向けて咆哮を放った。

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