7-ⅩⅩⅩⅣ ~ドラゴン娘はふりかけを食べる~

「……平たく言います、姫様がドラゴンになりました」

「「……はあ!?」」


 木星への突入前、事務所へやってきたシグレが放った一言に、蓮も、安里でさえも面食らってしまった。


「いや、ちょっと待て。何の前触れもなく、なんでそんなことになるんだよ!?」

「……いや、その。前触れというか、私のせいというか……」

「何をどうしたらお前のせいでそんなことに!!」


 意味不明すぎるカミングアウトに、安里が冷静さをやっと取り戻す。


「……順を追って、話してもらえます? あと、今どうなっているかも」


 シグレは頷くと、煙草を取り出す。


「禁煙」


 蓮に煙草をはたき落とされたシグレは、ぽつぽつと語りだした――――――。


*********


「姫様がクレセンタ帝国を訪れていた時――――――私は、町のパチンコ屋にいました」

「いきなりパンチが強いなあ」

「何してんだよ、お国の危機によぉ」

「しょーがないじゃない! まさかそんなことになってるなんて思ってもなかったし!!」


 おほん、と咳をして、シグレは続ける。


「それで、その日は、めちゃめちゃ出が良かったんです。トータルで10万ぐらいの勝ちでした」


 もうこの時点でツッコみたいのだけど、話が進まないので黙っておく。


「今日はごちそうだなーとか思って打ってたら、隣の人に肩を叩かれて……「玉、貸してくんない? ちゃんと返すから」と言われて」


 別に勝ってるしいいか、と球を少し分けてやったら、ものの20分くらいで隣の人は球を全てスってしまったらしい。


「クズ野郎じゃん」

「きっと、頼み慣れてますね、それは」

「それで、すっごい絶望みたいな顔でこっち見てくるから、「ああ、いいよいいよ別に」って言ったんです。そしたら、その人、凄い謝ってきて」


 ――――――ごめんなさい、返せなくって……。

 ――――――しょうがないですよ、パチンコなんてそう言うもんだし。

 ――――――これ、お詫び。


 そう言って、渡されたものは、何かの粉末でした。どうやら、みたいで。


「ふりかけぇ? ふりかけって、あの?」

「ええ、あの。なんか、パックじゃなくて瓶に入っていたんですけど」

「怪しいとは思わなかったんですか?」

「そりゃ怪しいですよ。でも、どう見てもの●たまだったんです」


 ――――――これかけてご飯食べると、元気が出るからさ。


「そう言って、その人はどっか行ってしまったんです。で、その日の晩、姫様がすっごい落ち込んでたから……」

「ふりかけ、かけちゃったんですか?」

「まさかこんなことになるなんて思わないじゃないですかあ!」


 そして、とりあえず現場に向かう。なんでも、アパートが壊れそうだったので、急遽避難したらしい。現在は身を隠し、地下駐車場の中だとか。


 シグレに案内された場所に行くと、そこには。


「グオオオオオオオオオオオオオ……」

「「あら、まあ……」」


 明らかにこちらを見て困ったように反応している、ドラゴンとなったエイミーがいた。正体を知らなかったら、絶対に逃げ出すなりぶっ飛ばすなりしていただろう。


「どうすんだよ、これ……! もう時間もねえのによ」

「とにかく、この大きさじゃ移動もできないですしねえ。食費もかさみますよ」

「というか、どうにか元に戻さないと!!」


 とはいっても、ふりかけでドラゴンになるんじゃなあ。


「……とりあえず、意思疎通できるんですかね」

「おい、何か喋れよ」


 蓮が言うと、エイミーは軽く息を吸う。そして。


「ゴアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアっ!!」


 盛大に咆えた。風圧で、駐車している車が少し動く。本気で叫んだら、多分吹っ飛ぶんだろうな。


「……翻訳アプリ、使ってみました」


 そこに表示されていたのは、「こーーーーーーんにーーーーーーちわーーーーーー!!」という文字。


「……姫様、昨日M-1見てたから……」

「あえてちょっと大きい声出してんじゃねーよ」


 しかし、一体どうしたものか。突入まで時間もないし、こんなことに時間かけている余裕もないだろうに。


「しゃーねえ、最終手段だ。……安里!!」

「はいはい」


 そう言って、安里はエイミーの身体にペタリと触る。

 その瞬間、尻尾が安里の身体を吹き飛ばした。


 吹っ飛んだ安里の持つスマホには、「セクハラ!!」と書かれている。蓮とシグレは互いに見合い、頷いた。


「どうだ、何かわかったか?」

「……ええ、まあ。どうやら、慣れない変身をしてしまったことで、緊張状態なんですよ」

「じゃあ、リラックスすればいいのか?」

「ええ」

 

 蓮は、ドラゴンになったエイミーに呼び掛ける。


「おーい、リラックスだってよ!!」

「好きな音楽聞いたり、漫画読んだり、ご飯食べたり、寝たりしてみてくださーい!」


 エイミードラゴンは、小さく「グウウウウウウウウウ」と唸る。


「「そんなこと急に言われても……」ですって」

「……お二方、ちょっと外に出てもらえますか?」

「え、なんで?」

「姫様、リラックスするとき……基本、全裸なんです」


 ああ、はい。納得した二人は、駐車場から出ていく。一応、誰も入らないように封鎖したうえで。

 それから3時間後。シグレの服を借りたエイミーが、顔を真っ赤にして駐車場から出てきた。


「……この度は、とんだご迷惑を……」

「まあ、結果オーライですよ。これ、うまくコントロールできるようになれば、戦力も大幅アップです。残りの日数でどこまでできるかは疑問ですが」


 剣術の練習に加え、おまけに変身の制御のコントロール。エイミーにとって、突入前の3日間は目が回る忙しさだった。


 そして、その成果が、竜人としての姿。


 エイミー・クレセンタ:竜人態である。

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