7-ⅩⅩⅩⅤ ~決着、木星の決戦~

「何、あれ……!?」


 愛は、驚愕の声を上げる。今まで剣の練習に付き合っていた時は、あんな姿にはならなかったはずだが。


「……エイミーさんも、怪人だったんですか!?」


 だが、立花愛の場慣れっぷりは、他の類を見ないほどである。そもそもエイミーは宇宙人でもあるわけだし、ドラゴンになったくらいでは驚かない。


「……カリンさんの、容体は?」

「損傷、20%……!」


 先程の反動の回復も、随時行わなければならない状況で、エイミーの加勢は正直ありがたい。


『――――――エイミーさん、聞こえてますね?』


「……ああ」


 蓮の鎧から、安里の声がする。


『カリンさんの回復まで、時間を稼いでください』

「……承知した!!」


 エイミーはカーネルを見据える。彼も、先ほどまでの帰る発言はどうしたのか、再びやる気満々であった。


「……貴様、その姿、どうした?」

「……お前に答える義理はない!!」


 刹那、剣と斧がぶつかり合う。同時に雷撃も散るが、竜人化することで雷も防げる。ほとんど痛痒にはならない。


「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「はああああああああああああああああああああ!!」


 そうなればもう、剣と斧のぶつかり合いである。激しい打ち合いで、互いの身体には切り傷ができていく。

 だが、片やドラゴンとなったエイミーは、凄まじい治癒力を見せる。傷ができた瞬間に塞がるので、攻撃に混ざった雷撃もギリギリで身体に届かない。


 そして、片やカーネルは。


(……傷が、ない!?)


 同じように塞がったのか、それとも傷がついたように、見えただけなのか。互いに距離を取り、確かについていたはずの胸の傷が、気づけばなくなっていた。


「……貴様こそ、地球人ではないだろう。木星でも平然と活動できる、その肉体……我々と同じ、スピリット体か!」


 エイミーの叫びに、カーネルは少し黙り、やがてくつくつと笑い出す。


「……まあ、似たもの、ではあるな。だが、俺は正真正銘地球生まれの地球育ちだよ」

「……どういうことだ。おおよそ、地球人の肉体構造と違うようだが」

「……そうだな。俺は、地球生まれ地球育ちだが、地球人ではない」


 カーネルの斧に、再び雷撃が宿る。


「――――――人の道理というものも、知らんな」


 稲妻が無数に飛び散る。狙いは――――――。


「ひえええええええ!」


 トリプールたちめがけ、雷撃が飛ぶ。


(コイツ……!! また、民を巻き込んで!!)

「逃げろ――――――っ!!」


 トリプールたちは慌てて離れるが、ギリギリ間に合わない。雷の爆発に、吹き飛ばされる。


「うわあああああああ!!」

「くっ!!」


 倒れている市民への雷撃を、剣で受け流す。感電はしなくとも、衝撃は相当のものだ。一撃受けるだけでも、相当の体力を消耗する。


「ぐうううううううううううっ!!」


 絶え間なく降り注ぐ雷撃を剣で受け流すエイミーだったが、とうとう限界が来た。最後の雷を受け流し、カーネルをきっと睨みつける。


「貴様ああ!! 正々堂々と勝負を……!!」


 そう、目線を上げた瞬間。


 眼前に、回転する斧の刃が迫ってきていた。


「ううううっ!」


 咄嗟に躱すが、間に合わない。

 斧は、エイミーの首筋を、深く切り裂いた。


 血が噴き出すが、血管自体は、すぐに塞がる。それほどの再生能力を、エイミーは持っていた。

 だが、問題はそこではない。


(マズい……!! 傷の塞がりが、間に合わな――――――)


 肉が抉れ、むき出しになった傷口から。

 

 刃に纏わっていた雷撃が、エイミーに襲い掛かる。


「ぐうあああああああああああああああああああああ―――――――――っ!!」


 斬撃とは比べ物にならない、全身を焼くような激痛。

 母の手足を炭と化した稲妻が、エイミーの全身をめぐる。


 エイミーが膝をつくと同時、カーネルの手元に斧が戻ってくる。


「……どんなに傷の治りが早くとも、深手はそう簡単に治らなかったようだな」


 とはいえだ。ここまでぶっ通しで戦い続けたカーネルも、決して無事ではない。


「……さっさと帰りたいんだがな」


 足取りが、想像以上に重く、舌打ちする。あのカリン……レッドゾーンを鎧にしているガキに、結構殴られたのが響いていた。


『……損傷、回復しました!!』 

「!?」


 女の声が聞こえたかと思えば、さっきのガキ!! じっと動かなかったのは、体力回復のためか!!

 飛び込んできて放たれた拳を、即座にガードする。重い衝撃が、カーネルの斧を持つ手の握力を奪っていく。


「……ガキが!!」


 斧と拳が、火花を散らしてぶつかり合う。にらみつけるカリンの背後から、迫ってくる影が、剣を振りかざしてくる。


「もう快復したか!! バケモノめ!!」

「アンタにだけは……!!」

「言われたくないわよ!!」


 両の腕が、二人の少女によって塞がれる。右腕は猛打、左腕は斬撃。休む間もない連撃が、カーネルを襲う。


(こいつら……!! コンビネーションで、さらに強くなっている!!)


 今までは、どちらか一方を相手取ってばかりだった。それが今、初めて二人を同時に相手している。そうなると、こうも厄介か。

 何が厄介かと言えば、やはりレッドゾーンだろう。鎧の硬度が高く、斧で受けなければ確実にダメージになるというのに、両腕を使えないのだから。


 向こうもそれがわかっているのだろう。先ほどから、斧を弾くと同時、腕そのものを狙っている。


(こ……っ、このままでは……っ!!)


 そして、その時は訪れてしまう。


 右腕の握力が、限界に達したのだ。 それは、右腕にカリンの渾身の右フックが入ったことによるものだった。


「ぐおおおおっ!!」


 うめき声とともに、右の斧が手からすっぽ抜けた。斧は今までのように雷撃を纏うことなく、ズシリと地面に落ちる。


「――――――今だ!!」

「―――――――必殺!!」


 カリンの目が、一層強く輝く。


 ぞわり、と。カーネルの全身に、粟立つ感覚がよぎった。


(こ、この技はまずい!! 防御を――――――!!)


 咄嗟に、左腕でカリンを迎撃しようとした、そこを狙われた。


「ああああああああ――――――っ!!」


 エイミーの剣が、下からカーネルの腕を切り上げる。


「……あれは――――――!!」


 思わず、声を上げたのは、愛だ。


「……立花流、上段の型、『桐揚羽きりあげは』!!」


 両断された左腕が、地面へと落ちる。


「……貴様らぁ―――――――――――――――っ!!」


深紅クリムゾン破岩穿パイルドライブ――――――――――!!」


 必殺の正拳と、二段目の衝撃波が、カーネルの腹に突き刺さる。

 閃光と爆発が起こり、誰も目を開けていられない。

 光が収まったころには、拳の先には何もなくなっていた。

 拳から蒸気が漏れ、カリンはそのまま倒れこむ。近くにいたエイミーも。


「な……なんと……!!」


 そこに立っていたのは、トリプールと、わずかな宦官だけだった。彼らもすぐに、腰を抜かしてしまったが。

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