7-エピローグ:Ⅰ ~変わり始めるクレセンタ~
二人が目を覚ましたとき、ベッドの上で寝かされていた。
「……あれ?」
「ここは……」
起き上がろうとした二人だが、同時に全身に激痛が走る。
「いっ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
「あっ~~~~~~~~~~~~~~~~っ!?」
二人同時に、変な声が出た。互いに顔を見合わせて、思わず笑みがこぼれる。
「どこだろ、ここ……」
「帝国……ではないな。地球か」
今の帝国に、こんなきれいなところはないだろうし。外の景色は、見慣れた徒歩市のものだ。という事は、病院で間違いないだろう。
「おう、起きたか、おめーら」
病室の様子を伺いに来た紅羽蓮は、二人と目が合う。
「あ、紅羽先輩」
「……カーネルは?」
「ああ、跡形もなくぶっ飛んでたってよ」
最後の一撃の後、倒れた二人を、シグレたちが慌てて助けに行った。そして、そこで待っていたのは……。
「お前らを頼むって、ジジイどもの遺言」
応急処置を済ませたカリンたちをシグレに託し、トリプールと宦官たちは自刃。同時に、クレセンタ帝国の男性にかかっていたバフも、すべて消え失せた。
「あの、「ワイなんとか」は、ジジイの身体の中に埋め込まれてた。どっちにせよ、アイツらが死なないと装置は止まらなかったんだってよ」
「……そうか」
彼らは、確かにおぞましいことをした。だが、それは、こちらが彼らにした仕打ちの仕返しでもある。それに、帝国を良い方向に変えようとしていたのは、まぎれもない本心だったのだろう。それが、女帝への憎しみで歪んでしまっていただけで。
「……母上は?」
「生きてはいる。だが……まあ、見りゃわかるよ」
そうして、痛みにこらえて移動したエイミーたちが見たのは、手足に包帯を巻いて横たわるルーネレスの姿だった。その手足の先が丸まっているのを見る限り、彼女の手足はおそらく、もう……。
「……母上」
「――――――エイミーか」
意識ははっきりしているようで、目だけが彼女の方を向く。
「その、私は――――――」
「もういい。妾に政治は、もうできんよ。こんなざまでは、民たちに示しも付くまい」
そして、きっとエイミーを見つめた。
「――――――お前に帝位を譲る。廃位でも何でも、好きにすればいい」
そう言って、ルーネレスはそっぽを向いてしまう。
それが、エイミーには我慢できなかった。
「……勝手に不貞腐れないでください」
そして、ルーネレスの着ている病院服の襟を、ぐっと掴んで引き寄せる。
「な、何だ……!!」
「あなたも、私だって、今回の件は責任を取らなければならないんです!!」
「だ、だから、妾は退位を――――――」
「そんなもん、何の責任も取っていないでしょうが!!」
実の母を怒鳴り散らすエイミーに、一同はぽかんとしてしまう。
「我々が、どれだけ人に恨まれることをしてきたと思っているんですか。責任を取るっていうのは、命尽きるまでそんな彼らのために矢面に立って民を導くことなんです!!」
たとえ、それがいばらの道だろうと。石を投げられようと。歩み寄らなければ、積もり積もった禍根を消すことなど、永遠にできない。
そして、禍根はまた、同じことを繰り返すのだ。
「――――――クレセンタは、生まれ変わらなければならないのは事実です。でも、あなたが引っ込んだり死んだりなんて、民が望んでも私が願い下げです」
そして、顔を思い切り寄せて、言った。
「――――――私が助けた命を、粗末にしないでいただきたい!!」
そこまで言って、ルーネレスを寝かせると、一礼してエイミーは去ってしまう。
「……驚いたな。あ奴、あんなに強かったか?」
おもわず呟くルーネレスに、蓮がボソッと呟く。
「庶民なめんな。皇族だろうが、叩きあげるなんざ屁でもねえよ」
そう言って、皆、ルーネレスの個室から出ていく。
女帝は一人になって、ようやく涙を一粒垂らした。
*********
それからの話になるが。
帝国でカーネルに売られた一万人の女奴隷は、皆正気に戻り、洗脳も消された。
というのも、一万人の奴隷を、裏で安里がカーネルから買い取っていたのだ。そしてそれらを、一人残らず治していたのである。
「くぅ~、疲れましたよ」というのが安里談だが、誰にも気づかれずにやってのけていた。
一体どうやったんだと聞いたら、一万人の女の子を小さいカプセルに圧縮して保管していたそうだ。そして、暇を見ては治療してやったらしい。
姫様方は完治したが、親衛軍やらの欠損がひどい者は、治りきらない者もいた。ショックは大きかったようだが、皆後ろめたいこともあったそうで、「これは戒めである」とすんなり受け入れる者の方が多かったのは驚いたそうだ。
わざわざなんでこんなことをしたと言えば、治療費を帝国からふんだくる……訳ではなく、帝国に多大な恩を売るためである。
帝国は、木星にまだしばらく滞在するそうだ。というのも、今回のいざこざで国力は大きく落ちている。とてもじゃないが、国もまとまっていない中、移動なんてできるはずもない。まずは地盤を固めるところから、だそうだ。
帝国、という呼び方も変えなくてはならない。ルーネレス・クレセンタより直々に、帝政の廃止が宣言され、議会が発足された。また、女性の人権の復活はしたものの、今回の件もあり、男性の人権剥奪はせず、平等な人権の保障がなされることとなる。詳細は後日議会にて、「新クレセンタ共和国憲法」を作って公布するそうだ。
そんなら、エイミーもさぞ忙しかろう、と思いきや。彼女は相変わらず、ボロアパートに住み、愛の家でバイトしている。
「私、留学生だからな。卒業して単位取らないと、家業を継ぐこともできん」だそうだ。愛とはなんだかんだで、仲良くやっているらしい。
そして、クレセンタ帝国が崩壊したことで、フルムント戦線も解体――――――かと思いきや、そうもいかない。
「我々の今度の敵は、カーネル
ゲイリーはそう息巻いているらしい。だが、カリンはさすがに受験生なので、前線で戦うのは控えさせるそうだ。
「当たり前なんだよなあ……」
蓮は、夜空を眺めながら呟く。
『でも、良かったね。だいぶ丸く収まって』
電話で話しているのは愛だ。
「まさか、宇宙の国のごたごたに巻き込まれるなんて思わねえよな」
『ほんと、ほんと』
「宇宙に行ったり、悪魔退治したりよお。マジで、この小説のジャンルわっけわかんねえよもう」
『あ、あんまりそう言うこと言うの良くないと思うよ?』
「言いたくもなるっつーの、大体な……」
蓮がぼやいたところで、一筋の星が光る。
「お、流れ星」
『え!? やだ、私見れない!』
「あ? なんで」
『だって、私今お風呂だし……』
窓べりに座っていた蓮は、顔を真っ赤にする。
「お風呂」と聞いて動揺したのか、バランスを崩してすっ転んだ。
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