7-エピローグ:Ⅱ ~木星の密談~
木星の、クレセンタ共和国首都から少し離れた荒野。そこを、一人の男が歩いている。
クレセンタ人である男は、荒野であるものを探していた。
「……おっ、あった」
彼が見つけたのは、オレンジ色に光る丸い球である。
男は、それを布に包むと、近くの洞穴の中へと入っていった。
「さーて、取り出しますは、これとこれと、これと……」
彼は、懐から様々なものを取り出す。電池、電極、コイル線。いずれも、電気を通すためのものだ。
それらを、すべて球にくっつける。
直後、電池の電流が、球へと流れ込んだ。バチバチという音とともに、電池は放電する。やがて放電が治まると、球に異常が現れ始めた。
球から電気が放たれ始め、それが、肉体を形成していく。
5分も経たないうちに、その球を包むように、あの雷霆カーネルの肉体が生成されていた。
「……ふう。ようやっと復活できたか」
「どうもです。カーネル」
カーネルに話しかける男の声は、聞き覚えのある声だ。いつもの男、安里修一である。
「……アザト・クローツェか。世話をかけるな」
「いやはや、本当に。保険で仕込んでいた「僕」を使うことになるとはね」
安里はそう言って、いつもと同じようにケラケラと笑う。
「しかし、難儀な体質ですよねえ。核の球さえ無事なら死にはしないけど、一度球になると外部から通電しない限り復活できないなんて」
「まさかあのレベルでやられるとは、思っていなかったがな」
カーネルの正体。それは、雷電そのもの。
核となる球が放つ電流で、怪人としての肉体は形成されるものの、本体は体内の球であるため、破壊されない限り死ぬことはない。
だが、結局のところ球だけでは何もできないのが現状だ。この秘密を知っているのは、アザト・クローツェとカーネルを生み出した悪の組織くらいのものである。その組織はカーネル自身が壊滅させたので、もうないが。
「――――――奴隷どもはどうした」
「禍根をできるだけ残さないように、治せるだけ治しましたよ。大変でしたよ? みんな徹底的に調教するから」
「俺が指示したんじゃない。……トリプールたちは?」
「自害されました」
「……そうか」
「何をセンチメンタルなふりしてるんですか。ただの雷のあなたに、そんな感情ないでしょう」
「お前には言われたくないわ」
そして、安里はふう、と一息ついて、カーネルに尋ねる。
「――――――なんで、すぐに帰らなかったんです? あなた、あのエイミーさん相手なら、何とかして地球に帰れたのでは?」
「――――――ああ、あれか」
思わず見入ってしまった、あのドラゴンの姿。
「――――――何か、知ってるんです?」
「高いぞ?」
「こんだけサポートしてやって、地球にも帰してやるんです。タダでいいでしょ」
「……違いない」
カーネルは、ふう、と上を見上げる。
「―――――――あの竜も、俺も、ルーツは同じだ」
「へ? 全く違うじゃないですか」
「ああ、全く違う。あるいは、すべての怪人のルーツと言ってもいいだろうな」
「……すべての?」
「軒並み、悪の組織の怪人は改造手術によって生まれる。お前ならわかるよな」
「ええ、まあ」
首を傾げる安里に、カーネルは構わず続ける。
「その怪人を生み出す、元となったもの――――――“オリジン”がいるのさ。そしてそいつは、どういうわけか、いつもふらっと現れて、ふらっと怪人の「素」を渡して去っていく」
「はあ」
「今この世界に存在する怪人っていうのは、その使い回された怪人の素でできているんだよ。そして、俺はその中でも、特に“オリジン”に近いらしい」
「らしいって何ですか」
「俺もまた聞きだからな。そして、これもまた聞きなんだが――――――」
カーネルの脳裏に、あの竜人の姿が浮かぶ。
「オリジンより直接生まれた怪人の中に、あのドラゴンと似た存在がいたらしいぞ?」
安里の表情が、少し歪む。口角が上がったのだ。
「――――――それは……」
「ロマンがあるだろう。地球に戻ったら、俺はすぐに動く。どれくらいで帰れる?」
「そうですねえ、なんせ7億5000万㎞の旅ですからねえ。どんだけ加速しても、1ヵ月はかかるかと」
「……結構早くないか、それ?」
「かなり頑張りましたよ?」
安里がロケットに変形し、カーネルはそこに乗り込む。
「じゃあ、俺はまた球に戻る。地球に着いたら、そっちでも通電を頼むぞ」
「はいはい。じゃ、いい旅を」
そして人知れず、木星から一つの黒いロケットが空へと飛んでいった。
それが地球へと向かって行ったことは、誰も知らないことである。
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