13-Ⅹ ~悶々として眠れない夜~
「――――――この、大バカ者がぁ!」
這う這うの体で研究所に逃げてきた蓮に対し、モガミガワは激怒していた。夕方に帰ってくるはずが、日付が変わるギリギリに帰って来たのもあるが――――――。実際のところ、それは些細なもので。
「女が脱いでいるのなら、なんでその写真を撮ってこなかったんだ!!」
「撮るわけねーだろバカタレが!」
怒っているはずのモガミガワに蓮が怒り返すという、なんとも奇妙な状況になっていた。しまいには、蓮がモガミガワを締め落とすという事態だ。
「く、くそう。しかし、一種の催眠か。何とも羨まけしからん……」
「お前のことだから、どーせそういう発明だって作ってるんだろ」
「まあな。だが、「催眠で女を従えたところで、お人形遊びと変わらん」ってことに気付いたら、虚しくなってな。それで開発をやめた」
このモガミガワという男、童貞かつ変態なくせに、恋愛の理想が気持ち悪いほど高い。理想が高すぎて、彼女どころか女友達すら作ることができないでいる。
蓮はどうしようもないモガミガワに舌打ちすると、ドサドサと買ってきた機材を乱雑に床に置く。
「あ、バカ! 精密機械だぞ!」
「うっせえ。俺はもう寝るからな」
そのまま蓮は、生活スペースに移動する。モガミガワはラボで寝袋を使っているため、六畳一間のスペースをゆったり使うことができる。
敷布団に横になると、腕を枕にしながら、蓮は先ほどの光景を思い出していた。もちろん、服を脱いだ女子高生の事――――――ではない。そのちょっと前だ。
謎の男の腹を蹴った時の、貫通の記憶。
(……くそっ)
目がちかちかして、過去の記憶が思い出される。それは、蓮にとっては思い出したくない記憶だ。あのオッサン、的確に人の嫌な思いをさせてきやがる。
正直、女子高生をたぶらかす事よりも、そっちの方がはるかに嫌だった。
(――――――忘れろ、忘れろ。あのオッサンは無傷だった。それでいいだろうが)
考えるのが嫌だったので、別のことを考えよう。というかもう寝よう。蓮は眠ろう、眠ろうと意識を集中させるが、逆に眠れない。こういう時に眼が冴えてしまうのは、「最強」でも普通の人間同様だ。
(……だめだ、寝れねえ)
蓮はむくりと起き上がると、備蓄食料である缶詰を手に取った。魚の塩焼きだ。それと同時に、パックご飯を用意して、備え付けの電子レンジに放り込む。
2~3分ほど待ち、レンジを開けると、ほかほかのご飯が現れた。米独特の甘い香りを湯気から感じ取ると、自然とお腹がすいてくる。
缶詰を開けて、割り箸でいただく。熱々のご飯と冷えた魚のしょっぱさがマッチして、どんどん箸が進む。この魚は骨もいただけるタイプの缶詰なので、ひたすらに勘の中身を貪り食っていた。
食べ終わるまで、ものの5分ほど。ちょうどパック1つを缶詰1つで食べきると、それなりに腹は膨れた。ふぅ、と息を吐くと、ゴミを片付けて、再び布団に横になる。
消化のためにさらに身体が活発になり、まったく寝付くことができなかった。しばらくイライラしていた蓮だったが、そのうちに朝になっている。
イラついているうちに、熟睡してしまったようだ。
******
「おい、昨日見たというアレだが」
翌朝、気だるげに仕事していた蓮に、モガミガワがレンチを向けた。
「悪の組織との情報共有で、ある程度素性がわかったぞ」
「何?」
「奴は吸血鬼だ。それも、「
モガミガワはモガミガワで、様々な情報を集めているらしい。よほど、昨日の女子高生の脱衣に出くわせなかったのが悔しかったのだろう。
「――――――イギリスより、特級エクソシストが日本に来ている。その行動からも、間違いないだろうな」
「エクソシスト?」
「なんだ、知ってるのか?」
「以前会ったことがある。吸血鬼ってそいつらの管轄なのか?」
エクソシストとは、蓮も浅からぬ縁があった。何を隠そう、立花愛の悪魔騒動の時には、家の周りをうろつかれたり、行動不能にしたり、共闘したり、当分動けないような大けがを負わせたり。アレは本当に申し訳なかったと、つくづく思っていた。
「知ってるなら話は早い。本来くっつくはずのない警察とも協力体制を敷いている。これだけでも、かなり由々しき事態だな」
「……そんなやべー奴が、何だってこの町に……」
「吸血鬼は処女の血が好きだからな。日本に吸いに来たんじゃないのか?」
「処女の血……」
吸血鬼と言えば、その特徴は、言うまでもなく「吸血」だ。人間の血を吸うことで、奴らは栄養を得る。要するに食事だ。
とりわけ、吸血鬼は清らかな乙女――――――処女の血を好むと、何かで見た記憶がある。
「……処女なんて、海外にだっているだろ? なんでまた日本に……」
「俺様が知るかそんな事。まあ、日本の食事は世界最高クラスだ。それを食って育った日本人の女は、栄養のある血を持っているのかもしれんぞ」
モガミガワは何かを想像しながら言うが、その想像は明らかに女性の豊満な肢体の事しか考えていないだろう。ちょっと鼻の下が伸びている。
「……まー、そんな大物が来ているからな。悪の組織界隈もなかなかの騒ぎになっているわけだ」
「へえ、そうかい」
機材を運びながら、蓮はさほど興味がない。適当に相槌を打って、ドスンと装置を置いた。
「……で、そいつは何なんだよ? 名前とか、ないのか?」
「ああ、そいつの名前な。確か――――――」
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