13-Ⅺ ~トゥルー・ブラッド~
「――――――トゥルブラ。そういう風に名乗っているらしい」
「なんだか、吸血鬼っぽくないな?」
「はっきりした名前がないから、「
漆黒を基調としたバーで、大柄な男女が3人、グラスを片手に談笑している。奥のボックス席は6人ほどが座れるはずなのだが、半分の人数で席はみっちりと埋まっていた。
「……それが、この町の女にちょっかいかけている奴の名前か」
「なんだ、気になるか? ギザナリア」
「お前のところ、女所帯だもんなあ」
ニーナ・ゾル・ギザナリアに加え、黒い骸骨のような様相の怪人と、筋骨隆々な怪人が席を共にしている。「断罪の鎌」ボスのタナトス、「カーネル36」首魁の、雷霆カーネルだ。
この3人は、定期的に情報共有としてこのバーに集まり、そして飲んでいる。いわゆる飲み友という奴なのだが、悪の組織の首魁であり、徒歩市どころか世界レベルのバケモノの集まりであった。
「まあ、うちの連中はさほど問題はないんだが……魅了か。できるものなら、
「オバサンなんか魅了してどうするんだよ」
「殺されたいかタナトス。真「デストロウム」の実戦相手にちょうどいい」
「やめとけやめとけ。……そう言えば、お前それ、モガミガワのところに取りに行ったとか言ってたな?」
「ああ。それがどうした?」
「アザト・クローツェから聞いたが……今、レッドゾーンが奴の研究所にいるそうじゃないか?」
「何!?」
レッドゾーンとは、安里が勝手につけた蓮の怪人界隈での通称である。さすがに本名を知られるわけにもいかない、というのが理由だが、実は蓮もちょこちょこ名乗っていた。本人は、ちょっとカッコイイと思っている。
「……レッドゾーンな。まあ、いるにはいたが」
「そう言えばお前ら、両方とも対峙したことがあるんだったか?」
「ああ。俺は木星で、ちょっとな」
「妾は……まあ、ちょこちょことな」
せっかくの偽名だったが、絶対にバレてはいけないだろうこの3人の内の一人に、本名はとっくにバレていた。なんだったら、1人には赤ん坊のころにオムツまで変えてもらったこともある始末だ。
一方でまったく接点のないタナトスは、恨めし気に酒をあおる。
「アザト・クローツェの最強の秘密兵器……一度、見てみたいもんだがなぁ」
「だったら、お前も武器をメンテナンスしてもらえばいいだろう。モガミガワに」
「俺様の武器はお前らみたいに外付けじゃないからな」
そう言いながら、タナトスは手のひらから刃を出す。変異、変容などではない。この男は、全身から鎌の刃を自在に出すことができるのだ。
「あんな変態に身体を弄り回されるのはゴメンだ。だったら、俺の信頼できる部下たちに任せた方がいい」
「……ま、それは妾も同意見だな」
そう言い、3人は酒を一息に飲み干す。平然と飲んではいるが、どれもこれもアルコール度数は50度を超える代物だ。
「……で、何の話だったか……ああ、そうだ。吸血鬼トゥルブラだ」
「カーネル。お前確か、「
ギザナリアがじろりと、カーネルを見やる。
カーネルが調べる「
「ああ。以前アメリカに出てきた怪獣がいたろ。あれも、調べたら「
「それが、つい最近に新しい怪人を生み出したってのか? 生命としてのスケールが違い過ぎるな。宇宙から来た、とか言われても妾は疑わんぞ?」
「……で、肝心のトゥルブラとの関連性だが……」
一呼吸を置くカーネルに、ギザナリアとタナトスの2人は、なんとなく息を呑む。
「――――――ないんだな、これが」
「「ないんかい!!」」
2人揃って、カーネルの頭をシバく。その衝撃で、バーの中全体が揺れた。グラスなどは扉付きのショーケースに入っていたから無事だったが、扉がなかったらすべて割れていただろう。それほどの力で殴っている。良い子はマネしてはいけない。
「アレは正真正銘、天然の生物だよ。不死に等しい寿命、霧のように物理攻撃をすり抜ける能力、そして様々な超能力……。太陽の光に弱い代わりに、色々と持っている」
「俺はどんなに力があっても、太陽の光を浴びれないなんてのはゴメンだな」
「妾もだ。運動会とか、参加できないじゃないか」
「「運動会?」」
「こっちの話だ! ……それで、女子高生を狙うと言っていたが……」
ギザナリアは真面目な顔をして、じっと2人を見やる。
「……そいつが、妾たちに、直接関わることはあるのか?」
「ない、とは言い切れん。どういう経緯になるかはわからんがな」
ほぼ不死と言ってもいい、真祖の吸血鬼。それがもし自分たちに敵対してきたときに、一体どう対処すればいいのか。
少し考えた後、カーネルは閉じていた目を開いた。
「――――――モガミガワに、当たるか」
「……そうだな」
(また蓮ちゃんの仕事が増えるのか……ごめんなぁ……)
カーネルとタナトスの2人を尻目に、ギザナリアは研究所にいる顔見知りの少年の未来を案じて、酒を一息に飲み干した。
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